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悪魔の御令嬢
「その者を捕まえよ!!」
少女の甲高い声が、逃げる男の耳に届く。
恐怖に慄き、震える足で距離を取ろうとする。
だがそれは、叶わぬ願いになった。
スーツを着た男2人に取り押さえられ、逃走する男は簡単に捕まってしまう。
地面に顔を押し付けるように拘束されていると、男の顔の前に誰かの足が現れる。
「貴様に問う。ムササビという言葉に、聞き覚えは?」
男の視界の外から、先程聞こえた少女の声が降ってくる。
質問の意図が分からずどういう事かと逆に問おうとしたが、恐怖のあまり声が喉を通らない。
まるで空気の抜けた風船の様にか細い呼吸音がするだけのその姿に、少女は明らかに残念そうな溜め息を吐く。
「この者の首をはねよ」
その言葉と同時に、男の首が一瞬にして飛んだ。
慣れた手つきで首をはねた男も、齢12歳のこの少女も、一切動じる素振りは無かった。
一連の動きを見届けた少女は、近くにいたメイドに声をかけ机と椅子を用意させる。
そこに腰かけ、いつもの言葉で命令する。
「とびきり苦い珈琲をいただくわ」
村の外れに存在する、異質な屋敷。
そこの近くには、絶対に近付いてはいけない。
屋敷の主人である悪魔の少女に見つかってしまったら最後、見境なく首をはねられてしまうから。
悪魔に心を売ったと揶揄される少女リーリエの噂は、この近辺では殆ど知らない人がいない程広まっていた。
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