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『またいつか、両親を殺した犯人が遺産を狙って来るはずです。全てを、断罪してしまいましょう』
白髪が血に濡れたヴェルシュが、そう言ったのだ。
両親の死体と血の海に囲まれ、そこに立ちつくす幼き日の自分。
欠けた記憶が蘇り、それと同時に頭に激痛が走る。
「いやっ……!!」
頭を抱えて呻くリーリエに駆け寄ろうとしたアトリだったが、その前に次の疑問をぶつけた。
「あの白髪の兄ちゃん、手袋を取った姿は見たことある?」
突きつけられた言葉に、大きく息を吸い込む。
信頼のあまり、向けたくなかった疑いの目。
しかしよく考えるとヴェルシュに関して、知らない事が多すぎた。
「君の大切な人なんだろうけど、大切な人だからこそ1度疑ってみるべきだと思う」
何も知らないからこそ、今1番怪しい人物。
長い事一緒にいたヴェルシュより、今は何故か昨日会ったばかりのアトリの言葉の方が信用できた。
このまま疑ったまま過ごすのは、心苦しくて気分の良いものじゃない。
何かを決めたかの様に椅子から立ち上がり、扉の方へと歩いて行く。
扉を開けようとするリーリエに向かって、アトリは最後の疑問を投げかけた。
「珈琲、好きなの?」
振り返る事なく、顔をひきつらせて呟くように一言。
「珈琲なんて、苦くて大嫌いだ」
怒り混じりの言葉を吐き捨て、その場を去る。
だが今回は、鍵はかけなかった。
彼女なりのお礼で、いつでも出て行ってくれて構わないとの意思表示だった。
リーリエ自身は部屋に戻る事無く、その足でヴェルシュの部屋へと向かう。
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