7人が本棚に入れています
本棚に追加
決断の御令嬢
ヴェルシュは、他の執事達とは違う1階の個室を使っていた。
物心ついた時からずっと一緒にいる為、それが不自然だとも思わなかった。
階段を下り、真っ直ぐその部屋に向かう。
だが部屋の前に来る直前、不気味な違和感を感じ取る。
いつもは固く閉ざされてる扉が、今日に限って少しだけ開いていたのだ。
隙間から漏れる光が、まるでリーリエを誘っているかの様だ。
ゴクリと唾をのみ込み、罠だと分かっていてもその光に近付く。
全てはヴェルシュへの疑いを晴らすために。
だが扉の前に立った瞬間、漏れていたはずの光が広がりリーリエの全身を包み込む。
眩しくて何が起きたか最初は理解できなかったが、目が慣れると徐々に目の前の状況が把握できた。
大きく開け放たれた扉、そして入口にはヴェルシュが笑顔で立っている。
「こんばんは、リーリエ様」
「あっ……」
隠れて覗こうとしていた事がばれた事で、怯えてる訳では無かった。
目線は、その開けられた扉にかけられていた手。
手袋を取った左手には、見間違える事は無いあの時の紋章が刻まれていた。
瞬時にそれを悟り、思わず腰が抜けて座り込んでしまう。
「どうしたのですか?リーリエ様」
安心できるはずの笑顔が、今はとても歪んで見えた。
伸ばされた手は腰が抜けた少女を立ち上がらせる事無く、そのまま首の方へと伸びてくる。
「んっ……!!」
か細い呻きが口から漏れる。
同時に、首がヴェルシュの手で絞められてる事を理解した。
最初のコメントを投稿しよう!