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「あの男にたぶらかされたのですか?」
「なっ……」
言葉にならない呼吸音だけが、漏れ聞こえるだけだった。
問いかけに答える事も出来ず、もがけばもがく程苦しさが増していく。
「私が犯人だとでも思って、ここに参られたのでしょ?」
まるで獲物を前にした蛇の様な視線、逸らす事など出来なかった。
苦しさが限界まで達しそうになった瞬間、突然絞められてた手が離れて行った。
ようやく大きく息を吸い込めるようになり、むせ込みながらも呼吸を整えて目の前の光景が鮮明に見える。
刃物が交じり合う音が聞こえる、そして目の前に2人の影。
「なっ……何故来たアトリ!!」
まるでリーリエの盾になるかのように、剣を持って立つアトリの姿がそこにはあった。
いつの間にかヴェルシュが持っていたナイフと対抗して戦っている様子に、最初は意味が分からず戸惑いを見せる。
「ごめん、入口の置物から剣拝借した」
「そうではない!!逃げれば良かったものの……!!」
アトリは、リーリエに手を伸ばす。
その手はヴェルシュへの安心感と似たものを感じ手を取ろうとするが、寸前の所で頭に大きな痛みが走る。
「痛い……!!」
「お、おい!!」
「貴様の汚い手でリーリエ様に触れるな!!」
突然痛がり出す姿を心配して駆け寄ろうとしたアトリだったが、それに立ち塞がる形でヴェルシュのナイフが喉元を狙って飛んでくる。
間一髪の所でかわし、逆にそのナイフを剣で弾き飛ばした。
乾いた音が、静かな屋敷に鳴り響く。
地面を転がるナイフがリーリエの目に入り、疑いが確信に変わる。
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