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だが振り上げられた手は、下ろされなかった。
腕を掴んで阻害したのは、ずっと話を聞いていたアトリだった。
「普通の女の子として生きたいなら、もうこれ以上手を汚す必要はないんだぞ?」
「だったら、このまま見過ごせって言うの?」
「俺がやる。まだ人相手にやった事ないけど……」
リーリエは首を横に振り、大粒の涙を目に溜めたままアトリを見上げる。
「アタシはもう、悪魔に心を売った罪人なの。だからアタシは、悪に徹する」
一瞬人の目では無い視線を感じ、思わず掴んでいた手を放すアトリ。
だがまたリーリエは笑顔に戻り、今度は躊躇いなくナイフを振り下ろす。
刃が肉に刺さる音が、鈍く響く。
首に突き立てたそれは、まるで墓標の様に真っ直ぐ伸びている。
だが最期のムササビの表情は、幸せに満ちた顔をしていた。
全部終わった、安堵の笑みを浮かべたと共に頭の中で何かを感じる。
そうだ、口うるさい奴はこうやって口を塞いでしまえばいいんだ。
「ねぇ、アトリ。貴方、珈琲は淹れられる?」
「え?」
顔を伏せたままだったリーリエは、振り返っていつもの調子でこう告げた。
「とびきり苦い珈琲をいただくわ」
返り血を浴びた顔は、いつにも増して狂った笑顔に変貌させる。
その姿はまるで、悪魔に憑りつかれたかの様だった。
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