決断の御令嬢

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その屋敷には、かつて人は近付いてはいけないと噂があった。 だが3か月前のある日を境に、屋敷の近くで人が死ぬ事は無くなった。 イスタニア王国1番の行商区で、そんな噂を耳にしながら歩くフードを被った少年の姿が。 適当に見つけた店で食糧を買い込むと、王国入口の馬車へと駆け寄る。 「すみません、メイズの森まで乗せていってください」 馬車へ乗り込み、動き出すのと同時にフードを取る。 頬に傷が増えたものの、その姿はアトリだった。 荷物は座席に置くが、剣だけは片時も手放さない。 その調子で20分揺られ、辿りついたのはメイズの森。 乗せてもらった男にお礼を言うと、男は眉をひそませ苦い顔を浮かべる。 「本当にいいのかい?今は噂は無くなったものの、この森の屋敷には……」 「大丈夫です……。俺は、平気なんで」 少しぎこちない笑みを浮かべて、荷物を握りしめる。 男の心配を余所に、軽くお辞儀をすると迷いなく森へと入って行った。 目的地は、リーリエの屋敷だった。 初めて訪れた時は森で迷子になっていたが、今は迷いなく屋敷へと辿りつける。 道すがらにそびえる2本の石碑は、もう何が書いてあったかも読めやしない。
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