悪魔の御令嬢

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父はかつて、偉大な戦士だった。 大きな戦いをくぐり抜け、王国一の剣術を持つ男。 そんな父がとある戦地で見かけた女性に恋をし、騎士団を抜けてこの地で隠居していたのだ。 戦地で稼いだお金で平穏な暮らしをしていたのだが、莫大な資産を狙った者たちに何度も何度も襲われる。 剣の腕がたつ父にかなう者などいなかった、そのはずだったのだ。 あの日襲い掛かってきた男、父はムササビだと言った。 顔は隠れて見えなかったのだが、その人物は特殊な模様の刺青を左手の甲に、更にはそれと同じ模様が刻まれたナイフも持っていた。 何を話していたのか、何でここに来たのか。 今となっては何も知る手立てがないが、父はそいつに負けたのだ。 首から飛び散る鮮血が、リーリエの顔につく。 泣き叫ぶ母の事も気にならない程、その目の前の光景に釘づけになっていた。 それから母の首も切られ、同じように鮮血が飛んだ事は覚えている。 だがどうして生き残ったのか、未だに思い出せずにいた。 「必ず……必ずアタシが仇を……」 改めて決心を固めようとしたリーリエの背後の茂みから、ガサリと大きな音が聞こえた。 その音に慌てて涙を拭き、いつでも逃げられるように身構える。 復讐に燃え無慈悲に鉄槌を下すが、まだ彼女自身は非力で戦える訳では無い。 何かあったら、逃げるしかないのだ。
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