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「アトリと言ったな。悪いが貴様を拘束させてもらう」
「拘束……!?」
「リーリエ様!!お言葉ですがこの者がムササビであったなら、リーリエ様が危険に晒され……」
「黙りなさい!!」
怒号に近い一喝に、空気が一瞬にして張りつめる。
全員が戸惑っていたのだが、1番困惑していたのはリーリエ本人だった。
アトリの事は、殺しちゃいけない気がする。
少しだけ感じた心境の変化に戸惑いつつも、ヴェルシュに命を下しアトリは屋敷の中へと連れて行かれた。
「どうしてなんだよ!!俺何もやってないだろ!!」
そんな言葉を叫んでいた声は、徐々に遠くなって聞こえなくなる。
気持ちの悪い汗が頬を伝うのを感じながら、息苦しい感覚に襲われた。
こんな気持ちじゃ駄目だ、仇を見つけるまでは非道に徹さなければ。
頭では理解していても、アトリの顔が浮かぶ度にその意志は揺らぎ続けていた。
「リーリエ様」
背後からいつもの声がする。
たった1人の、家族と呼べる存在。
心安らぐ、唯一の安息地。
振り返ると、綺麗な白髪が風に揺れながら微笑みを湛えるヴェルシュの姿が。
「今日はもうお疲れでしょう、珈琲お入れしてますよ」
その笑顔に身を任せたい気持ちを抑え、2人で屋敷へと戻って行った。
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