青年配達員のシヴァン

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青年配達員のシヴァン

 春の昼下がり、 ニトモチの町唯一の郵便局の一室。 15歳になる青年配達員のシヴァンは、 机の上に置かれた一通の手紙の前へと仁王立ちになり、 じっとそれを見つめていた。 真っ白な封筒には丁寧な青い文字で、   ニトモチの町 北の丘 白い小屋  魔女様へ と書かれている。 何度となく目を凝らしてみても、 そう記されている。 シヴァンは明るい茶色の瞳を険しくさせ天井を仰いだ。 「いや、マズいってこれは……」 誰ともなく呟く声に局の扉が開き、 午前の配達を終えた配達員達が 陽気な声と共に帰って来た。 「お疲れー、お、シヴァン  もう帰って来ていたのかー」 「早ぇなぁ。やっぱ若い奴は足がちがうなぁ、  足が」 「おい。何ぼさっとしてんの?  俺、のど渇いたんだけど」 わいわいと騒ぐ三人の配達員達は、 机の手紙を見てピタリと黙り込んだ。 そして互いに顔を見合い、それぞれが机を囲む手近な椅子にどっかりと座る。 シヴァンは、先輩である三人の顔をぐるりと見回した。 一人は右に座った大柄な男、強面の顔に生えたゴマ髭をさすり苦笑いを浮かべているアッサム。 東の地区を担当している。 シヴァンの正面にある窓へと背を預け、 煙草に火をつけているのは 南担当のルイ。 白に近い金髪を持つ見目麗しい男で シヴァンの次に若い。 シヴァンの左へと腰かけ、(ひざ)をさすりながら手紙を眺めているのは初老のサトー、 西の担当者である。 それぞれの場所へと落ち着いた彼らに、 シヴァンは机へと両手を付き重い口を開いた。 「この手紙……っ届け先が怖すぎて 未配達のまま戻ってきちゃいました!   サーセンっ俺、命が惜しいっす!」 「押忍!」 勢いよく頭を下げ叫び言い放つシヴァンに、 アッサムが間髪を入れずに合いの手を入れてきた。 意味など無いその合いの手にサトーが陽気に笑い、 頭を下げたままのシヴァンの肩を叩いた。 「まぁーまぁー、午前が駄目なら午後がある。  午後が駄目なら明日があるさ」 「サッさん……」 そう年長者のサトーにそう言われると、 まだ大丈夫かなと言う気持ちになり、 目と揃いの茶髪をパッと散らし希望に顔を上げた。 そこへと、いつの間にか近づいていたルイの顔があった。 「そしてもう一日延長追加。  おめでとさん、これで一週間だぜ?  だめ配達員」 ルイは端麗な顔に意地の悪い笑みを浮かべると、 紫煙をシヴァンの顔へと吹きつけた。 シヴァンはごほごほとそれにむせながら、 何するんですかと涙目で抗議の声を上げた。 「こら、ルイ。  ふくりゅーえん攻撃は止めろって言っただろう?  ま、お前の言っている事は  間違っちゃいねぇけどさぁ。……うりゃ」 「つめてぇ!火が消えちまうだろアッサム!  ……それシワ伸ばし用の霧吹きじゃん、  俺じゃなくてじぃさんにかけろよ」 「何だと?わしがじぃさんと呼ばれる年には  あと3年は必要だ。  ひざ掛けどこに置いたっけなぁー、  ひじが冷えて痛ぇんだよ。  知らねぇか?」 「『ひじ』じゃなくて、『ひざ』な」 「変わんねぇ」
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