狩りをするカナリア

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変化した空気を敏感に感じたシャンは ピョンと飛び跳ね、シヴァンの腕へと飛びついた。 「わッ」と声を出し、シヴァンがシャンを見る。 シャンは彼を上目づかいで見上げ、 戻って来た視線に甘えた声を出す。 「ねぇシヴァン。  お返事を書くのに新しい便箋が欲しいの、  今日行ってもいいかな?」 「あぁ、もちろん。今行っても誰かいるよ、  あ、ルイ先輩もいるけどね」 シヴァンは再びてくてくと歩き出した。 シャンが「もー」と言いながら横に並ぶ。 「シヴァンが居る時に行きたいの」 拗ねたように言うと、シャンはシヴァンの左手をきゅっと握った。 シヴァンの胸がどきりと鳴る、 シャンは誰にでも妹のように甘えられるのだと思っていても、 気恥ずかしいものは気恥ずかしい。 繋がれたままの手がくすぐったく、 思わず足を止め、シャンを見た。 潤んだ水色の目が真っ直ぐに見返してくる。 美しい金髪に縁どられた小さな顔に、 唇だけが赤く、妙な艶めかしさを添えている。 長年、妹のように接してきたシャンが 今日はやけに女らしく見えた。 シヴァンはさり気なく繋がれた手を解き、 そのまま親指でシャンのオデコを推し、 後ろへと下がらせた。 そして、困ったような笑顔をみせる。 「いつまでも甘えない。  俺が居なくたって局にぐらい行けるだろ。  ルイ先輩だって案外いい人なんだから」 「いい人だから?なに?」 「……や、何というか、いい人だから、  たまにはおしゃべりでもさ」 「私が他の男とおしゃべりして、  シヴァンは楽しい?」 「なんだよ、シャン。  訳わかんない所で突っ掛かってくんなよぉ」 軽い兄貴風でも吹かせようとし、返り討ちに合うシヴァン。 弱り切った彼は鼻をすんと鳴らした。 明るい茶色の瞳が、すがるようにシャンを見る。 そんな叱られた大型犬みたいなシヴァンを、 シャンは心底嬉しそうに眺め笑みを浮かべた。 「私は楽しくないなぁ……  シヴァンが他の女の子と、  楽しそうにおしゃべりしていたら」 白く柔らかな手が、するりとシヴァンの頬へと伸びて来る。 シヴァンは慌てて身を捩りその手から逃れた。
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