ドリンクバーで数時間

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「私、帰る! 払っといてね」 「ちょっ、叶美(かなみ)」 放課後のサイゼリヤ。俺たちは男3人でだべってる。 「あそこのカップル別れんのかな」 「知るかよ」 卓也(たくや)はそっけない。 「何頼む?」 「私サイゼじゃなくて、スシローが良かった」 「まあ、次はスシロー行こうって」 「私はもっと高級なパスタ屋がいいわ」 「ちょっ、お母さんまで」 俺はまた言った。 「あそこの家族揉めてる」 「そりゃ、俺だって寿司食いたいわ」 那智(なち)が言う。 「スシロー遠いだろ。サイゼの方が安いし」 俺がもっともなことを言うと、卓也は、 「かっぱならそこにあるぜ」 と言って、窓から指した。そこにはかっぱ寿司。 「今度あそこな。那智のおごりで」 「俺小遣い減らされたから無理だって」 「じゃあ晴人(はると)」 「なんでやねん」 俺は抗議した。 ピンポーン。隣の席の呼び出しが鳴った。 「ご注文はエビのカクテルサラダと、ミラノ風ドリア、グリルチキンステーキに、デイアボラ風ハンバーグステーキ、スープセット、ライス大盛りでよろしいでしょうか」 「あそこめちゃ頼んでる」 「そりゃ俺たちみたいにドリンクバーで居座ってるのと違うだろ」 「晴人、何さっきから他の席じろじろ見てるんだ?」 那智に言われてしまった。 「リア充だなと思って」 「俺たちだってリア充だろ」 と卓也が言う。 「男3人のどこがリア充だよ」 と那智。 「俺、昨日3組の間山(まやま)に振られたんだ」 俺がぼそっと言うと、「ドンマイ」と2人は言う。 「まあ晴人の積極的なとこは買うよ」 そんなこと言われてもうれしくない。 「いつになったらリア充になれるんだよ」 「一生無理じゃねえ?」 と言う那智に、「夢がないこと言うなよ」と卓也が本気で怒る。 「どうせ俺たち3軍だし」 俺が言うと、3軍って何だよという突っ込み。 「最初のカップルみたいなのが1軍」 「2軍は?」 「まあ、稼ぎ悪くても結婚してる家族とかかな」 俺が答えると、「せめてスシローぐらい行かせてあげたいよな」と卓也が同意する。 「俺だって1軍になるかもしれないじゃん」 「一生無理って言ったのは誰だよ」 那智に突っ込むと、「急にモテ期が来たりさ」と悪びれもなく言う。 俺たちの会話はつきない。 しかも会計でちょっと揉めた。 那智がドリンクバーも払えないと言って俺たちに払わせてくる。 「三倍にして返せよ」 「競馬で勝ったらな」 高校生がかけられないだろ。 でも誰も突っ込まない。 やっぱこいつらと付き合ってたら、一生リア充になれないかもしれない。 「明日も来るだろ?」 「明日はコンビニアイスで」 「来月の小遣いの後な」 サイゼリヤはたまにしか行けないけど、俺たち3軍の憩いの場所なのは間違いない。
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