一期一会 その5

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一期一会 その5

「美味しかったです」 量は少ないものの、丁寧に美味しく作られたパフェを堪能した和葉は男性店員にそう言った。 「お口に合ったようで良かったです」 さっと食べ終わった器を下げる男性店員。おそらく閉店の時間も近いのだろう。和葉はお財布からお金を取り出す。 「ご馳走さまでした」 「お粗末様です」 お釣りも受け取り、お財布を鞄にしまおうとしたところで、和葉は男性店員に声をかけられた。 「お仕事、お忙しいんですね」 「えぇ、まぁ」 最近はお昼ごはんもコンビニで買ってきて、デスクで仕事をしながら済ませる。多忙でない時期は少ない。 「ですが、あまり無理しないようにしてくださいね」 久しぶりにそう言われた気がした。最後に言われたのはいつだろうか。 「えっと、ありがとうございます?」 (そんなに疲れているように見えたかな) 学生や内定者の前だけではなく、他の社員の前でもなるべく、疲れを見せないのも仕事のスキルの1つと教えられた。最近は上司や同僚も気づいていないはずだ。 「美味しいと感じられるうちは大丈夫ですが、そうでなくなってきたら気を付けてくださいね」 その言葉がすとんと和葉の中に落ちた。 入社してから慣れない仕事で遅くなることもあった。愚痴も社食で同期と食べながら言えた。 でも、人事部に異動してから愚痴も言っていなかった気がする。いや、言えなかった。その話が部外秘や社外秘に繋がることばかりだからだ。同期にも、友達にも、家族にも言えない仕事。そればかりが続くと、自然と愛想笑いが多くなった。同期と呑んでいても、口数は少ないし、当たり障りのことしか話せない。 そうなった頃から、食べても美味しいと感じることは少なくなってきていた。 今日のパフェは、久しぶりに美味しいと感じられるものだった。 「疲れているようでは、お仕事捗りませんから、たまにはゆっくりされてください」 見透かされたような目。しかしそこに恐怖はなかった。 「ありがとうございます」 「またいつでもご来店、お待ちしてます」 和葉は頭を下げて、お店を出ようとしたとことろで振り返った。 「お兄さんの名前、教えてもらえますか?」 「右京と申します」 男性店員---右京は微笑みながら答えた。 「ありがとうございます、右京さん。パフェ美味しかったので、また頑張れそうです」 「そう言ってもらえて、良かったです」 和葉は改めて頭を下げるとお店を出た。雨はすっかり上がっていた。雨雲はどこかに去ったのか、星空も見えた。 「とりあえず、明日明後日はゆっくり休むか」 背伸びをしながら、星空を見ていると偶然にも流れ星が見えた。 「流れ星!」 (もしかしたら、良いことがあるのかもしれない) 久しぶりに軽くなった足取りで、和葉は自宅へと歩きだした。
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