一期一会 その1

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一期一会 その1

降り続く雨。 仕事も遅くまでかかったからか、すっかり夕飯の時間から遅れた。金曜日の夜なのに、こんなに遅くなると自炊もめんどくさくなる。 北村 和葉(きたむら かずは)は重い足取りで会社を出る。 大学卒業後に就職した今の会社は製造業で、和葉は人事部に所属している。 人事部は大きく2つのグループに分かれている。人事制度などの制度設計を担当するグループと新卒の学生などの採用を担当するグループであり、和葉は採用担当グループに所属している。 夏のこの時期は学生向けのインターンシップを受け持ちつつ、秋~冬に向けての学生向けのプロモーション企画を考えなくてはならない。それと同時に、秋に開催される内定式の企画も準備しつつ、内定者に細やかに連絡を取らなくてはならない。 企画書類の作成、プロモーション業者との打ち合わせ、内定者向けの教育計画案の作成、内定式の企画打ち合わせ...。日々やることが多過ぎて目が回る。 入社してから工場勤務だったが、一昨年人事部に異動となり、それからずっと採用担当として忙しい日々を送っている。 工場勤務のときは日々こなす仕事は決まっていたが、人事部に来てからガラッと変わった。 ルーティーンの仕事はない。 先がながい締め切りだらけの仕事。 とにかく仕事のスタンスが180°変わった。 異動して1年経った頃にようやく仕事の流れを覚えて、去年からは仕事を自分で回せるようになってきた。 (本当にやること多過ぎ。人足んないよ) ため息も今日だけでどれだけ吐いたかわからない。企画書の直し、打ち合わせ、急な変更の指示への対応。そうこうするうちに、定時をあっという間に超えて、定時後からようやく今日とりかかるタスクを確認できた。 駅に着いて、ICカードで改札を抜ける。さすがにこんなに遅いと人もまばらかと思ったら、飲み会帰りの人が多い。金曜日の夜、羽目も外したくなるのは和葉にもわかる。 そんな和葉も社会人になってから独り暮らしをしているためか、金曜日の夜は自分へのご褒美を用意している。 それは読書の時間だったり、映画を観に行ったり、美味しいごはんを食べにいったり、さまざまだ。特に決めていない。
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