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一期一会 その2
(さて、今日はどうしよう)
こんなに遅くなるとは思わなかったこともあり、今日は寝てしまうのもありかと和葉は電車を待ちながらぼんやり考える。
電車はすぐ来た。人はあまり乗っていない。和葉は空いている席に座り、ぼんやりしながらスマホを取り出す。
(読みたい新刊もない、レイトショーも興味あるのはない、目をつけてたお店もない。ないない尽くし)
電車に揺られること15分。あっという間に最寄り駅に着いた。雨はまだ止んでいないようで、ホームの屋根に当たる音がする。
1つしかない改札口を抜け、傘を鞄から取り出す。
(そうだ)
思い立って、独り暮らししている賃貸マンションとは反対の方に和葉は歩きだした。暮らしているマンション周辺はスーパーやコンビニはあるが、外食するお店は多くない。時々、駅を挟んで反対側に来るものの、駅から歩いてすぐのお店にばかり入ってしまう。
(今日はもう少しだけ足を伸ばそう。特になかったら、そのまま戻って帰れば良いか)
足取りは重いものの、気持ちまで重いまま帰りたくない和葉は歩く。
異国情緒溢れる飲み屋、お洒落なバー、ファミリーレストラン、ファーストフード。特に気がそそられるようなお店が見当たらない。15分ほど歩いてから和葉は帰ることを選択した。
(今日はなんもなかったなー)
そんな日もあるかと、気持ちを切り替えて家に向かって歩きだそうとしたとき、ふと細い路地に気になる看板を見つけた。
《一期一会》
バーとも喫茶店とも食事処とも書かれておらず、店名だけが書かれていた。遅い時間まで開いているのか、看板の近くからはお店の光も漏れている。
(覗くだけ)
見た目は喫茶店のようだ。木製の扉についている窓から中を覗くと、小さな喫茶があった。後ろ姿だけであるが店員はまだいるのがわかった。
メニューは特にないので判断できないが、多分喫茶店だろうと判断し和葉は扉をそっと開けた。
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