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一期一会 その3
カロンカロン
扉についていた鐘がなり、店員が振り向いた。喫茶店のようだが、黒メガネをかけた男性店員は着物を着ていた。
(むむ。イケメン?)
顔立ちは整っており、メガネが良いアクセントになっている。
「あの、まだ開いてますか?」
「どうぞ」
店員に勧められたカウンター席に座る。きれいな檜の1枚板のカウンターだった。
(もしかして、お高いお店だったかも?)
疲れていたからか、値段もメニューも確認せずに座ったことに早くも後悔する和葉。
「こちらメニューです」
渡されたメニューを開くと、食事から甘味まで揃っていた。値段も良心価格で、和葉はほっとする。
じっくりメニューを見ていたが、そそられるものがなく、和葉は店員に声をかけた。
「今日のおすすめってなんですか?」
「...そうですね」
飲食店の店員としては珍しく、愛想もあまり良くない。しかし所作からは育ちの良さが伺える。
人事部に異動になってから、上司や同僚によく言われるのは『人をよく見る』ことだった。採用担当は学生をよく見て判断しなければならない。
この会社に入ってほしいか、否か。
昨今の学生はwebテストだけではなく、面接もよく訓練されてくる。そのため、面接の時の学生が、本来の学生と同じかどうか判断しにくくなっている。
ある学生は虚勢をはり、自分を出来るように見せる。
また在る学生は自分を出来るかのように話す。
採用した学生の良し悪しは、配属されてから数年しないと評価出来ない。期待した以下の働きの場合、文句を言われるのは人事部である。
期待通りか、それ以上を求められる人事部は日々人を観察し、観察眼を養わなければならない。
「これはいかがでしょうか?」
男性店員は、和葉にこの時間では勧めにくいメニューを示した。
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