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#1 嫉妬で深まる愛は俺を強くする
夏が来た。
暑い夏だ。
去年も海には行ったけど日帰りだったから、
泊まりがけというのに楽しみが増す。
しかも車あり!山!バーベキュー!海!
二日間堪能できる絶好の機会…
しかも彼氏の萌くんと一緒…
今1番仲良くなりたい、ちゆも一緒…
持つべきものは、なんとやら。
春輝に感謝しないと。
なんて思いながら、いつの間にか朝方。
ちょっと早いけど、そろそろ出る時間だ。
朝早くから車に乗って遠出をする、
まだ陽が昇る前。
しっかり前日眠ってから準備をしたので良い感じ。
携帯がチカチカと光って着信が鳴る、
誰だろう…
画面を見ると萌くんだった。
「もしもし?」
『…悠李さんおはよう御座います』
「なんで敬語?」
『あっいや、違う!』
なんだか慌ててる声…
外の雑音のようなものが聞こえる…
「萌くんおはよう、どうしたの?」
『えっと…寝れなくて、今家の前に…』
もしかして!と、窓を開けると手を振る萌くんが居た…なんてこう、可愛い彼氏なんだろうか。
胸がキュンとするのを感じて「すぐ行くね!」と言って電話を切る。
ワクワクしてるのは一緒なんだろうな。
だったら前日からお泊まりとか一緒にしてもよかったのかもなんて思っちゃう。
この旅行でもっと近づけたらいいな、
なんで期待に胸を膨らませながら、
自宅を出た。
「ごめんね、待った?」
「いや、俺が来ちゃったから…急がせてごめん」
いつも優しい萌くん。
何かって進展するわけじゃないんだけど、
一緒にいると安心するしゆっくり2人のペースで進んでいきたいなってずっと思ってる。
どうも、前に恋愛に対して嫌な思い出があるから、
正直怖さもある…
萌くんに限ってそんなことはないと思うんだけどね。
信じなきゃ。
たわいもない会話をしながら待ち合わせ場所に向かう。
1台だけやけに派手な黒光りしている大きな車と見慣れたサングラスをかけた人物を見つける。
身長もあるし目立つから待ち合わせとか便利だな…
なんて思ってると、目が合った。
「はよ〜」
緩やかに手を振る。
とりあえず合って早々に言いたいことがあった。
「おはよう春輝…てかTwitterみたんだけど千雪と泊りに行ったの?」
私がにっこり笑いながら詰め寄るとニマッと春輝は笑った。
「何にもないよ〜?」
なんて手を振る。
やけに2人が仲良くなった理由は聞いているけど、
なんか腹立たしい…
「おはよう、ゆりちゃん、はじめくん」
既に後ろの席に座っている可愛らしい人物に声をかけられてときめく。
「ちゆ!おはようー!!」
思わず、後ろの扉を開けて千雪に抱きつこうとすると、ザッと後ろに嫌な気配を感じる。
「!?」
春輝よりは低いけど身体中タトゥーの編み込みヘアーの強そうな男がそこに居た。
「ッ!誰…」
「あら、ごめんなさいね〜おはよう、アタシは今日の運転手よ♡」
急に可愛くウインクされて目が点になりそうだった。
「豪ちゃんっていうの、俺の友達〜志騎高のOBだよ…こっちが悠李で、こっちが萌くん」
「よろしくね♡」
「宜しくお願いします!!」
挨拶を交わすと、後ろに荷物を積み込むのを手伝ってくれた。
萌くんもアタフタしながら荷物の詰め込みをしてもらっている、確かにアレは怖いよね…
準備を終えて、
後ろの席に乗り込む
豪さんの運転で助手席に座る春輝。
2人でわいわいと話し込んでいて会話にイマイチついていけない。
後ろは千雪、悠李、萌という順番で座っているんだけど…数分も経ってないうちに萌くんは眠っていた。
仕方ない、前日からあまり寝れてないとさっきくる途中で話していたし、寝かせてあげよう。
「ちゆ」
私は隣の千雪に声をかけた。
「なぁに?」
凄い可愛いワンピースを着ていて似合っているのだが、首元に光るアレが気になって仕方ない。
「ちゆってなんでも似合うよね♡…ワンピースも凄い可愛い〜」
「ん?ハルくんが選んでくれたんだよ!」
嬉しそうに服やネックレスを見せてきた。
「はるくんが欲しいって言ってたから買ってあげたら、ちゆのも買ってくれたの〜!ワンピース も選んでくれたんだ〜」
「そうなんだ春輝が選んだんだ?」
おいこら!なんでそんな仲良くなってんの…?
千雪に前に聞いたけど、
付き合ってるわけじゃないらしい…
でもあきらかに、恋人同士みたいじゃん。
一緒に泊まりに行って?仲良しで??
「なんか文句でもあんの?」
急に前の席から春輝が振り向きながら言ってくる。
「別に〜」
「さっきも言ったけど、何もないから気にすんな」
「ゆりちゃんどうしたの?」
「…いや、大丈夫」
私の感覚がズレているのか…
萌くんと私より2人の距離の方が近いように思えてならない。
このままじゃ春輝だって男だしなんかしないか気になってしまう。
そういうとこは信用がまだイマイチ出来ていない…
だって春輝だって男だからね!?
何をしでかすか分からないから!
そんなこんなで、2時間ほど離れたところまで来ると山が一層険しくなる。
揺れが激しい…
途中コンビニで萌くんを起こしてあげたけど、
首が痛いと悲しそうに言っていた。
千雪と話すのに夢中で肩を貸してあげるとか膝を貸してあげるとか…
彼女なのに全然気が利かなかった…
悔しい。
やっとついた場所は、
山や川が凄く綺麗で澄んでいた。
周りは森といった感じでコテージが佇んでいる。
まだ新しいのか綺麗そうだった。
「アタシは、行くところがあるからいつも通り好きに使っちゃって?また明日迎えに来るわね」
そう言って春輝が豪さんから鍵を受け取っていた。
いつもこんなとこに来ているとは、
春輝が遊び人になるのもわかる。
「それじゃ、バーベキューから始めよっか〜」
と春輝が楽しそうに言って準備が始まった。
手際良く準備していくので、
ほとんど萌くんや春輝に任せて
テーブルに皿を並べたり食材を準備したりと
千雪と一緒にやっていた。
そこそこバーベキューを進めながら、携帯を見る。
「ねぇ、さっきからTwitterに肉の速報を呟きたいのにツイートできないんだけど」
私がイライラしながら言うと春輝が「あっ」と口にしてコテージに入っていった。
暫くして戻ってきて「このWi-Fi使って」と番号を見せられた。
そっか、山だから電波が悪いんだ。
「サンキュー」
私は千雪や萌くんにも番号を見せ、バーベキュー速報をした。
「この辺りまでなら電波あるけど、アスレチックの中に行くと電波通じないから気をつけて〜」
と言われて驚いた。
アスレチックとかは、ちゃんと整備されたものではないんだろうか…
「今時電波通じてないとか、どうなってんの?」
と私が言うと春輝は眉間にシワを寄せる。
なんか変なことを言っただろうか。
「…設計したのは、ゆかりだから恨むならゆかりを恨んでね」
「えっ?」
意外な名前が出てきた。
ここは一体なんなんだろう…住所を調べたが特に何か出てくるわけじゃない。
そんなことを思っていると急に萌くんが春輝に声をかけた。
「というか…はじめからこのアスレチックにくるつもりだったんですか?」
「そうそう、萌くんの体力測定でもしよっかなーって」
「?」
よく分からない会話だった。
というか夏休みなのに山に誰もいないのもひっかかる。
「でも凄いよね、豪さんの持ってる土地なんでしょ?ゆかりさんも設計とかできるの凄いね〜」
急に千雪が言った言葉で全てが繋がった。
アスレチック共々全部貸し切り!!?
ここら辺一帯全部、持ち家なんだ…
「春輝の人脈やばくない?」
私が肉を食いながら言うと、
「もっと褒めていーよ」なんて調子に乗ってくるから、春輝の皿に入っていた肉をぶんどってやった。
「あ!ひでぇ!」
「いーじゃん、まだあるし」
そんな食い意地をはってしまってて、不意に萌くんを見ると、千雪と話してたのであまりこっちを気にしてる様子では無さそうで安心する。
つい、春輝の前だと可愛い自分でいられなくなっちゃうな…
「とりあえず、萌くんとアスレチック行ってくるから、悠李と千雪は適当に遊んでてよ…家の中いろいろあっから」
「オッケー、とりあえずコテージの中入ってみよ!散策したい!」
私が言うと千雪が「いいよ」と言ってくれた。
萌くんは「えっ、すぐ行く感じですか?食べたばっかりですけど…」なんて言いながらも春輝について、木の生い茂る道を歩いていった。
体力測定か…
ちょっと気になるけど男の子同士でやりたいこともあるよね…近くに滝もあるし湧き水が気持ち良かったり、遊べそうなところはいっぱいある。
バーベキューの片付けをして、とりあえずコテージをぐるっと千雪とまわると一番びっくりしたのが風呂だった。
「露天!!!!」
思わず私が叫んでしまうと、千雪が笑ってる。
恥ずかしかった。
「ごめん、ちょっとテンションあがっちゃって」
なんて言うと「大丈夫だよ、そういうゆりちゃんも好きだな」なんて可愛いことを言われ、
やっぱり千雪は世界一可愛いなぁなんて思っていた。
「はじめくんと入れたらいいね」
といきなりハードルの高いことを千雪が言ってくるので「ちょ!」なんで辺な声が出てしまった。
いやいや、確かに貸切だし一緒に入るとかは…
出来なくないけど…
そんな広い風呂じゃないし…
「一緒かぁ…」
と私が悩んでいると千雪がうーんと呻いた。
「ゆりちゃんは、はじめくんとどうなりたいの?」
意外な言葉が千雪から出てくる。
どうなりたいなんて、あんまり考えてなかった。
なんとなく一緒にいたり楽しめたらいいなってぐらいにしか考えてなかったし。
あまり大胆なことはしないようにって思ってたから…
「今はまだ分からないかな…萌くんも、どうしたいか分からないから…」
「…聞いてみた方がいいね!せっかくだからいろいろやってみよう?」
「そうだよね…何かやってみよっか!」
本当にできる子だし可愛いし、一緒にいると和む。
2人で夜にやりたい事と話したりして
まったりと過ごしていると、
不意に自分の服が汚れていることに気付いた。
「あ、ちょっと着替えてくるね」
お気に入りの服だし軽く手洗いして干しときたい。
まだこの時間なら大丈夫だよね。
「いってらっしゃい〜」
千雪はゆったり紅茶を飲みながら深くソファに腰をかけていた、お嬢様って感じだし…
本当可愛いなぁ…
私もあんな感じに可愛い雰囲気出せてるのかな。
萌くんには、どう見えてるんだろう。
服を洗い終わってソファに戻ると千雪は気持ちよさそうに寝ていた。
朝早かったもんね…
私は前日にあれだけ寝ちゃったし、今寝たら夜寝れなくなりそうだから千雪に布団をかけて外に出た。
「んーーー!気持ちいい!」
伸びをすると、森林の空気が身体中を包んだ。
せっかくだし、春輝や萌くんの様子でも見に行こうかな?
2人が進んでいった道に行こうとすると、木の根っこに足が引っかかる
「ウワッ!」
思わず木を抱き締めるような感じになるが、
手が滑りしっかりと掴めない、まずい!!!
嫌な方にバランスを崩して、
体が崖側に浮き上がった、
こういう時、なんていうんだっけ…
走馬灯?
世界がスローに見える…
ドサッと音がして、
体に痛みが走った。
落ちた。
ほんの一瞬の出来事だった…
最悪…
着替えたばっかだったのに…
立ち上がろうとしたが、足がジンとする。
まずいな…暫く動けないかも…
不意に上を見ると、意外と高いところから落ちたことに気づく。
足が痛いぐらいで特に傷がないのは不幸中の幸いだけど…
どうやって上がればいいんだろう。
多少の足場はあるけど…
とりあえず足の痛みが少し引くのを待とう。
冷たい岩場にもたれかかり、
静かに息を吐いた。
携帯繋がらないだろうって、
置いてきちゃったの軽率だったなぁ…
なんてぼんやり思いながら目を瞑った…
…
「どこまでいくんですか?」
なかなか足取りが変わらない春輝先輩…
20分くらいは歩いたな…
「この辺かなぁーーー」
なんて周りを見渡しながらいうが…
かなり入り組んだ道や障害物ばかりだ。
「ここで何を…」
「今からタイムアタックしまーす♡」
それは、春輝さんが決めたルートを俺が時間内に駆け抜けるというものだった。
いける。
運動神経に自信はあるし…
時間も長めだ…
「いきまーす」
よーいドン!なんで軽快に声を出すので、思い切って地面を踏み込み障害物を避けッ…!!?
いきなり背中に衝撃が走る。
ボールが飛んできた。
「避けながら行ってね?」
「マジすか…」
「マジです♡」
時間内に着くはずなのに、
ボールが気になって全然ダメだ…
投げるか投げないか春輝先輩の様子を確認するが、ただ見てるだけだったり…
そうかと思えば目を離した隙に投げてくる。
全然読めない。
「…きっつ…一旦交代してもらってもいいですか?」
「いーよ?」
何回も当たるボールに嫌気が差して交代を申し出る…よーいドン!の合図で春輝先輩が動き出すのを目で追いながらボールを投げると見事にキャッチされた。
違うボールを投げるが、持っていたボールをこちらに投げ返され俺が避けるのに必死になってしまった。
いや、今は当たってもいいのに!!
さっきまで避けていた癖がついている。
「はい!到着ーーー」
そんなことを考えていると、あっという間に目的の場所にいた。速い。
「てか、俺の場合体格差があるからこれだと楽勝になっちゃうね」
と言われて先輩なのにイラッとしてしまった。
「俺だって…」
「ん?」
「やります!もう一回お願いします!」
何度も何度も、繰り返していると日が暮れてきた。
今一体何時だ?…というかまだ時間内にゴールしていない…悔しい…
「もう暗くなるから戻ろ…てか、ずっとぶっ続けで萌くん体力やばいっしょ?」
全く息のがあがってない春輝先輩に対して足がガクガクだった。
「…はぁ、あとちょっとなのに」
俺がモヤモヤしていると、
「はるくん!!!!」と千雪先輩の声がした、
息も絶え絶えに春輝先輩の胸へ飛び込む。
「大変!大変なの!ゆりちゃんが!!!!」
その言葉にゾッとする。
「悠李さんが!?どうしたんですか?!!」
思わず俺が千雪先輩に近づいて腕を掴んでしまった、それに先輩は驚いて身を縮こませた。
「…ゆ、ゆりちゃんがいないの」
そう恐る恐る言われ最悪な状況に頭の中が真っ白になった。
「嫌だ…俺、探してきます」
「待て」
春輝先輩が力強く俺の腕を掴むが振り解いた。
嫌だ、嫌だ、悠李さんまでいなくなるなんて。
「ごめんなさい、行かせてください」
「落ち着け、焦ってバラバラに探せば連絡がつかなくなる」
春輝先輩の言ってることは正しい。
「でも俺!駄目なんです、探してきます!」
「落ち着いて、はじめくん」
「嫌です!だって、だって…悠李さんが…!すぐに見つけますから!」
そう言って走り出そうとすると前に春輝先輩が立ちはだかった。
「行くな」
「嫌です!春輝先輩だとしても…言うこと聞けません!!!!!」
「今の萌くんじゃ、危ないから1人にできない」
「大丈夫ですから!!!!!退いてください!!!!」
その瞬間、パシンッと思いっきり頬を叩かれた。
「イッ!」
思わず後ろに尻餅をつく。
「はじめくん!!」
千雪先輩が俺を支えてくれる、さっきまでのアスレチックのせいで膝が笑う。
「俺、駄目なんですよ、大事な人が…いなくなるのは…駄目なんです…」
我ながら泣くとは情けない…
胸が苦しい…
過去に大事な人が消えてからどうしても誰かがいなくなることに敏感で不安で。
「萌、よく聞け?」
急に春輝先輩が俺の肩に手を置く。
「大事な人のために必死になるとさ、自分を見失って…いつもより周りが見えなくなるんだよ、俺もそういう時が結構あってさ…」
凄く優しい語りかけだった。
「でも、そういう時に何が1番大事かって、自分に負けないことなんだよ…もし1人だったとしても、そこでアクシデントがあったとしても、自分を持ってれば絶対大丈夫だからさ…それに」
不意に春輝先輩が立ち上がる。
「今は俺たちがいるから、だから一回落ち着け」
頭の上に手をポンポンと置かれた。
だんだん気持ちが落ち着いてくる。
「…わかりました、でも…」
「大丈夫、多分場所はわかる。」
「え?」
春輝先輩が突然携帯のライトを照らしながら進む。
後ろから千雪先輩とついて行くと、
大きな木の近くまできた。
「きゃっ」と千雪先輩がよろけたので、思わず俺は支えた。凄く足場が悪い。
「悠李ーーー!!!いるーーー???」
と突然、春輝先輩が崖の下に声をかけた。
まさか…
「春輝!!!!いるーーー!ゆり、ここにいる!」
と下から声がした。
ライトを照らすと、そこに悠李さんがいた。
「悠李さん!!!!」
俺が身を乗り出すと、春輝先輩に首根っこを掴まれた…掴んでもらわなかったら落ちるところだった。
凄く不安定な足場なんだ。
「先に注意しとけばよかった…前に2人くらい落ちてんだよこの崖…」
春輝先輩がスルッと岩の端々を使って下まで降っていった。
俺も降りたかったがさっきまでの話しや春輝先輩は慣れているだろうから任せるしかない。
歯痒い気持ちが胸を苦しくさせた。
「悠李、平気?」
「おせぇよ」
「ごめんな〜」
「…許す」
なんて2人が下で会話していた、悠李先輩を立たせている…悔しい…そんな時、肩にポンッと手が置かれた、俺は嫉妬をしていたし、もしかしたら春輝先輩に対して凄い形相で睨んでいたのかもしれない。
「大丈夫だよ」と千雪先輩が言ってくれた。
信じなきゃ…
「俺が、悠李押し上げるからそっちから引っ張ってーーー」
春輝先輩の言う通りに悠李さんを引っ張り上げた…
ホッとして泣きそうなのを堪えてると、
「ごめんね」なんて悠李さんが言うものだから、
結局ちょっとだけ泣いてしまった…
俺からもう離れないで…
そんなエゴが渦巻いていた。
…
カポンッ…
浴槽の温かな香りに包まれる。
「露天最高だなーーー」
やっと1人になって風呂でぼんやりしていた。
悠李、千雪、萌、春輝という順番で風呂に入っているから、落ち着いて最後を満喫して長風呂をしていた。
今日ふと、
萌くんに言った事を思い返す。
俺は俺を信じられているだろうか。
本当に1人になった時に冷静でいられるのか。
いくらでも人には言えるのに、
心と体なんてそうそうにバランスはとれたもんじゃない。
俺もまだまだなんだよなぁ。
昨日夜、タロ先輩と話していたときに言われた事を思い返していた…
『オレだって自信はねーよ
女の子守りたいっつっても、できねー時はできねーし、、
でも、オレはそうしたいって思うからやるだけ
できるできないは最初から考えてねーよ
春輝はオレみたいになんなくてもいーんだよ
春輝は春輝だから
お前のやりたいよーにやればいい
オレに頼るのも、お前がそうしたい時でいいよ
でも、目の前で春輝が大変な目にあってたらオレは勝手に出てくよ
おう、いつでも連絡してこい
なんでもいーから 』
不思議と印象的な言葉で昨日から何度も思い返していた…
頼るか…
俺も誰かに頼ったりとかしてみてもいいんだよな…
風呂場を後にして、
髪を乾かしリビングに行くと
うるさいぐらいに賑やかな声がした。
「やばーい、うけるんだけどーーー!」
「可愛い〜!!」
女子2人が笑ってる先で萌くんが縮こまっている…
一体何をしてるんだ?
「はるくんだ〜」
ふと、千雪の手を見ると缶チューハイをもっていた。
なるほどな?コイツら酔ってんのか…
「は!春輝せんばぁぁあい、、、!!」
急に泣きながら萌くんが俺にしがみついてきた。
「あはは、出来上がってる感じ?」
俺が空笑いをすると、悠李が「ん」と新しい缶チューハイを渡してきた、飲めってことか。
昔から体質なのか全然酔えないけどまぁいっか。
みんないろいろ不安だったのかな?
なんでこうなったのか謎だった。
「春輝先輩…俺やっぱ、弱いんすよね、全然使い物にならないし、もう俺死んだ方がマシだぁーーー」
「ちょっと、萌くん…」
「はじめって呼び捨てがいいっす、そう呼んでください、あの時…めっちゃ痺れたんでお願いシャス!」
…とりあえず萌くんは酔っ払うと面倒なんだな?
なんて思ったので俺じゃなくて違う人のとこにいかせようと悠李を見ると目があった。
いいよって事だろうな。
「萌、わかったよ、でも死んだ方がなんていったら駄目だ、悠李が悲しむよ?」
というとバッと悠李の方を萌くんは見た。
「萌くんが死んだらやだな…」
悠李が凄いぶりっ子な感じでもじもじするもんだから、うわぁ…なんて内心思ったが、
萌くんは「悠李さぁぁぁあん」なんて飛びついていったので助かる。
恋は盲目ってやつか…
「本当に可愛い〜ーーーあつあつだね?」
楽しそうに千雪も2人を見ているが、目がとろんとしている…あんまり普段とは変わってないがちょっと口調が子供っぽくなるんだなぁなんて思っていた。
「悠李さん、来て」
急に萌くんがベランダへと悠李を引っ張る。
外に出ると簡易的な椅子に2人は座った。
俺や千雪の事は無視か…
「はるくん、シッーーーーだよ?」なんて静かにするように促してくる千雪。
まぁ、空気は読むけどさ…
「俺、やっぱり悠李さんが大好きなんだ、ずっと一緒にいたい、ひと目見た時からこの人しか居ないって思った、好きだよ。」
結構真面目に言うものだから悠李がどんな反応するのか、緊張したのだが。
「嬉しい」
と一言いった。
やけに女らしい…そんな一面もあんだな。
なんて思ってると、
「キスしたい」
なんて萌くんが言った。
「いいよ」と悠李が言う。
おいおい!?
俺や千雪もいるとこで??
まぁいいけどさ…
こっから先は見ない方がいいかと、
俺が見ないように身を引こうとする。
少しして、
ガタンッと嫌な音がしたので振り向くと
「寝ちゃったか…」
なんて残念そうな悠李の声がする。
めっちゃ今いい雰囲気だったのに?
……寝た?
俺は頭を抱えた。
萌くんに昼間あんなスパルタにしなきゃよかったな…
最近コーヤンを鍛えていたせいか白熱してしまった。
ふと萌くんと悠李を見ると、
悠李が萌くんの額にキスをしていた。
へぇ、可愛いとこあんじゃん。
なんて見ていたら、
悠李と目が合う。
悠李は目が合うとそっと中指立ててきたので、
俺はハートを両手の人差し指と親指で作ってにっこり微笑んだ。
「全く、見せ物じゃないんだから…」
そう言いながら萌くんのに肩を貸して悠李は戻ってくると別部屋の布団に寝かしつけにいってしまった。
そのまま2人で戻ってこないとかもありそうだな、それはそれで困るけど…
「ねぇ、はるくん…」
急にさっきまで静かだった千雪に腕を掴まれた。
「ん?どうしたー?」
「はるくん何かいつも本当のこと話してくれないでしょー?寂しいな〜」
「え?なんの話?」
「ほらー、また誤魔化したでしょー?ちゆのこと嫌い?…もしかして好き?」
…これは確実に酔ってんな…?
アウトレットに泊まりに行った時にも似たようなこと言われたような気がする…
……確かあの時は、
「はるくんって、モテそうだけど付き合ってる子とか、好きな人いないのー?」
その質問は突然だった。
「ん?いないよ〜?」
「どうしてー?」
恋愛系の話は苦手だから誤魔化そうと思った。
「…ちゆはいろいろあったし、男性怖かったりするんでしょー?彼氏つくんないの?」
「質問に質問で返すの無し〜はるくんすぐ誤魔化すんだから!」
「うわぁ、痛いところつくじゃーん」
そうだ、別に酒が入ってなくてもそう言ってたな…
千雪は変に鋭いところがあって、
たまにかわしきれない。
最近なんか距離感がよくわからなくなる。
「俺ね、好きな人いたんだけど…上手くいかなかったんだよね…だから恋愛はどうでもいいっていうか…」
「え、勿体ないよ〜…はるくんなら一緒にいたいって子たくさんいるんじゃないかなぁ…?」
「無い無い、俺そんなモテたことないから!」
「うーん、はるくんだったら安心するし毎日楽しいなって思えるからいいなって思うけどな〜」
悪戯にしてはタチが悪い…
「はぁ!!????」と思わず変な声が出てしまう。
「例え話だよ〜」
「びっくりすんじゃん、やめてよ〜!!」
「え?もしかして、ちゆのこと嫌い?」
「ばーか、だったらこういうとこに一緒に来ないでしょーーー明日早いから早く寝るぞ」
もうこれ以上は話したく無い…
逃げるように布団に潜り込むと、
「えっ、はるくんー…」
なんて布団をごそごそする千雪…
「ねぇ、くすぐったい」
「ギュってしてくれないの?」
「……はい」
「やったぁ」
結局流されてるし、許してしまう。
あの日は中々寝付けなかったな…
また掘り返そうとしているのか、
酔ってるなら早く寝てほしい。
「どうなのー?はるくんー?」
「あぁもう、喋るな!!!」
思わずソファに連れていき千雪の口を手で塞ぐ。
「んーーー!男の子なら、手じゃなくて口で塞ぐんじゃないの〜??」
「えっちょ…」
急にのしかかって俺の口に人差し指を当てくる。
なんだよこれ…いつもより大胆すぎんだろ…
てかまって、めちゃくちゃ胸が当たる、近い。
俺の理性でも試してるんだろうか。
「はじめくんキスしてもらってたね〜ちゆもしてほしーな」
「いや、あの2人は…」
「そんなに嫌??…もういいもん。」
急に俺から離れて泣きそうな顔をした。
な、なんでそうなる???
「無理…マジでやめて…そういうの」
「えっ…」
俺が冷たく言うと千雪は更に悲しい顔をする。
まずい、これじゃ泣くんじゃ無いか…
違う、そうじゃない。
「ちゆとするの嫌なんだ〜…」
「そうじゃねぇよ!!」
思わず引き寄せておでこにキスをする。
自分でも驚くくらい心臓が痛い。
やるつもりじゃなかったのに…
なんでやっちゃうかなぁ…
やっぱり俺って変われないのか…
「これでいいでしょ…」
「え〜短いからもう一回♡」
そう言って、千雪が俺に迫ってくる。
これだから酔っ払いは…!!!!!
「ちょーっと!?!?」
すると急に悠李の声が響いた。
救世主!
悠李が千雪を俺から引き離すと「変態!最低!」なんて言いながら千雪を部屋に連れていった。
俺は何も悪く無いんだけどなぁ…
「はるくんーーー!」と言いながら悠李に部屋に連れ込まれていく千雪を見ながら深いため息をつく。
もう千雪に酒は飲んで欲しくない。
…いや、まてよ…
俺一緒に飲む約束しちゃったじゃん…
約束を破るのは好きじゃない…
薄めに、薄めに作るか。
そうしよう…
騙してジュースを飲ませるとかでもいいな。
対して味もわかんねぇだろうし…
それだ。
俺は、そう思いながら散らかったままのリビングを放置して萌くんの寝ている部屋に入って眠りについた…
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