それでもまた夏は来る

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……ねぇ、覚えてる? 夏休み中頃、夏の割に少し肌寒かった夜。 ペルセウス流星群が夜空を埋め尽くした日のこと。 夜中熱があるのに私が一人家を抜け出して、学校の近くの丘を登ろうとしたことがあったでしょう? 私たち天文学部なのに、その日ペルセウス流星群が見られると知っていたのは私だけで、誰も観測に行こうなんて言い出さなかった。みんなペルセウス流星群を知らないなんて天文学部の名が泣くよ、まったく。 みんなにとってはあまり価値のない自然現象だったかもしれないけれど、私にとってペルセウス流星群を見ることは小さい頃からの夢で、丘を登るのはあれが最初で最後のつもりだった。 なのに、その日私は体調を崩していて、親から外に出ることを禁止されていた。熱を帯びた体を持てあましながら、働かない頭で必死に打開策を考えた。 家からじゃ周囲の建物が邪魔で流星群がよく見えない。どうせ見るなら丘に寝転がって見たい。ずっとあそこから空を見上げて見たかった。 流星群をどうしてもみたくて、昨日本屋で特集された本を買ってきた。机の引き出しにしまっておいたそれを取り出して、パラパラめくる。写真だけじゃ、味気ない。自分の目で見たいのに。そんなことを思っていると、ドアをノックする音がして、お母さんが入ってきた。慌てて私は本を枕の下に隠した。 「体調どう?」卵粥をお盆にのせて、枕元に来る。 そして額に手を当てて眉をひそめる。 「熱、上がってきたんじゃない?今日は一日寝て無くちゃダメよ」 素直にこく、と頷けば、お母さんは熱さまシートを取り替えて、私がご飯を食べるのを見守った。 食欲がない、と言っているのに、少しでも食べろと言ってきかなかった。 結局半分も食べられなかった。 去り際にお母さんが言った。 「手術、受けるわよね。書類、書いておくから。後で千春も名前書いてね」 「……。」 お母さんは私が手術を受けると思っているみたいだけど、私は、成功する確率が低いなら、痛い思いや怖い思いはもうしたくないと思ってた。手術には本人の同意が必要。私が名前を書くのを拒否したら…。 お母さんが去ってから時計を見て、私は流星群が見られる時刻まであと数時間しかないと知り、覚悟を決めた。 『やっぱり丘に行こう。それで流星群が見られたら、手術を受ける勇気を下さい、ってお願いしよう。』 どうやら手術を受けなければ、私は来年の今頃まで生きていられないみたいだから。
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