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〝千春〟
そこには小さな細い字で、千春、と書かれていた。
差出人を示した名前に私と彩花はすっかり肩をなでおろした。
「なんだ、千春から?」
何か大事が起ったかと思ったのに、千春からの手紙なら、一体何を泣くことがあるだろう?きっと大した内容じゃない。
「千春も手紙なんて書くんだね?」
「ほんと、明日雨でも降るんじゃない?」
「嵐だな」
「嵐だね」
私と彩花が軽口を叩いて笑っていると、「そんなこと言ってる場合じゃない!」と突然祐子が声を荒げた。
「千春はねぇ!もうここにいないんだよ!」
拳を握りしめて、いないんだよ、とつぶやいた。
「いなくなっちゃったの、千春」
祐子はまた泣き始めた。
「……どういうこと?」
おそるおそる私が聞くと、乱れた呼吸のあいまに祐子が話した。
「家に、帰ってきたら、…手紙が届いてて、読んで、……『嘘』、って思って、……た、確かめなきゃで、…千春と同じクラスの子に聞いて、…そしたら、ほんとに、千春、…学校来てなくて、……さっき、千春の家行ったら、やっぱり、誰も居なくて…」
肩で息をする祐子をなだめて落ち着かせ、私と彩花は机の上にある手紙に目線を移した。
そしてすでに封の切られたそれを、手に取って読み上げだ。
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