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「先輩って意外と男運悪いんっすね」
そして、柴浦はさらっと詩帆の図星をついてきて、詩帆の表情が反射的に強張った。
「……よく、分かるわね」
「そりゃあもう。浮気する男も、『仕事と俺』発言する男も、いい男とは言えないっすから」
詩帆は認めたくないが、実際友達にも男運が悪いのでは、と指摘を受けたことは今まで何度もある。
詩帆は認めたくないが。(大事なことなので二回言う)
柴浦はさっと、ポケット灰皿を取り出して、詩帆のものと一緒に、二人の吸い終わったタバコをしまう。
しまったところで、柴浦は会話を仕切り直した。
「先輩の相手はそこら辺の男じゃ無理っすよ」
「はあ?」
「仕事バカの先輩を、ちゃんと支えられる男じゃないと」
柴浦の発言に、詩帆は眉間にシワを寄せた。
「君、今しれっと仕事バカって言ったでしょ?」
「あ、バレた」
いたずら好きの少年のような顔を浮かべる柴浦。
柴浦は後輩で、年下で、たまに生意気。
詩帆にとっては少し可愛い存在。
多少の冗談は、いつものやり取りだ。
最近は行けてなかったが、どんなに仕事が山積みでも、たまに喫煙所で会ってそんなやり取りをすると、荒んだ心が癒されていたものだ。
(なるほど。柴浦ってば、冗談で私を笑わせようとしてくれたのか……)
無意識に、詩帆の顔が綻んだ。
そんな詩帆を見て、柴浦の心が漏れる。
「……その顔は可愛すぎ」
「ん?今なんて……」
柴浦の声が小さかったので、何を言ったのか聞き返そうとしたとき。
柵の上に乗せていた詩帆の手に、柴浦の手がそっと覆いかぶされた。
突然乗せられた手の意味が分からず、詩帆がちらっと隣の柴浦を見ると、いつもとは違う真剣な眼差しが向けられていた。
「俺じゃダメですか?」
「ダメって……」
「俺なら浮気はしないし、仕事と俺どっちが大事、なんて聞かないです」
詩帆からすれば、後輩としか見ていなかった相手。
なのに、力強く握るその大きな手は、目の前にいるのが一人の男なのだとしっかり物語っている。
「あ、また冗談? さすがにその冗談は、」
「冗談でこんなこと言わないです」
冗談というわずかな可能性は、食い気味で否定された。
「前からずっと、先輩のこといいなって思ってたんです」
(そんな素振りなかったけど!?)
「喫煙所で会うと嬉しくてつい、冗談とか言っちゃって。彼氏が出来て来なくなったときはさすがに落ち込んだんですよ?」
(あの冗談にそんな裏事情が!?)
「いつもたくさん仕事引き受けちゃうのは心配でしたけど、同時に、俺が支えてあげたいなって思うようになって」
(心配!? え、支えたい!?)
「そこら辺の悪い男じゃなくて、俺にしません?」
柴浦の眼は真剣ながら、纏う空気は緊張しているようにも見える。
だからこそ、彼の一生懸命さは詩帆にそのまま伝わった。
きっとそれが、柴浦の本心。
でも、詩帆の頭は追いつかない。
(本気で柴浦が私を……?)
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