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「でも、私、柴浦のことそんな風に見たことないし……」
「はい。分かってます。今はただの後輩にしか見られないですよね」
思いの外あっさり引き下がってくれることにホッとするが、なぜか柵の上の手は握られたまま。
若干気まずい雰囲気になり、詩帆が下を向くと、月明かりに照らされてできていた柴浦の影が、徐々に近づいてくるのが分かった。
「だから―――
次の瞬間。
おでこに感じた、柔らかい感触。
「今はこれくらいで我慢します」
おでこに触れたそれが、柴浦の唇ということはすぐに分かり、詩帆はキッと柴浦を睨みつける。
「生意気……」
だが、目つきは睨んでいるのに、よく見れば耳は真っ赤で、肩はぷるぷると震えていた。
生意気と言われて睨まれても、それが詩帆の照れ隠しだと気付いた柴浦の口元は、無意識ににやけてしまう。
「そのギャップは反則」
抑えきれないにやけを隠すように、柴浦は空いているもう片方の手で自分の顔を覆う。
「先輩。俺の恋人になってください。そしたらめちゃくちゃに甘やかしたい」
「甘やか!?」
言われ慣れない言葉に、詩帆は仰天して声が裏返る。
先ほどから、柴浦に上手いように転がされている気がしてならない。
「……年上をからかわないで」
「ははっ。先輩の反応がいちいち可愛くてつい。……取り急ぎと言ってはなんですが、今日うち来ませんか?」
……聞き間違いではないだろうか。
今、たしかに柴浦は、家に誘った?
(いやいやいやいや……!さすがにいきなりそれは……)
「もう終電ないっすよね。うちならタクシーで帰れる距離です」
言われて瞬時に時計を見ると、いつのまにか時間がかなり経っていた。そして柴浦の言う通り、終電もとっくに過ぎている。
「あ、安心してください。さすがに付き合ってない人を襲いはしません」
柴浦は男だけど、信頼は置ける相手。
たとえさっき告白してきた相手だとしても、その信頼は変わらない。
だから家に誘われたとしても、そこに彼の下心は一切感じられなかった。
「寝るのに抵抗があるなら、徹夜でゲームすることも可能です」
柴浦は一手二手先を読んで、詩帆が懸念しているであろう点を潰していく。
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