32人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「あ、あの頂けないです」
ティラミスクラシコを紳士の席に運びながら断る。
40代半ばほどの……。
オジサンではない、紳士だ、紳士なのだ、紳士見たことないけどこれぞ紳士。
このクソ暑い真夏にチェック柄のスリーピーススーツ、自分の座る横に置かれたのはシルクハット。
ちょび髭に丸い銀縁眼鏡には鎖がついていて、胸元にはハンカチーフ…、何かすごい。
自分の周りにはいない、確実に。
「私頼みすぎてしまいましてね、食べ物を無駄にするくらいならばお嬢さんに食べてもらいたいな、と。お嫌いでした?」
「あ、いえ、好きですが」
「でしたら是非に。このティラミスクラシコも私のようなオジサンのお腹に入るよりもお嬢さんのような可愛らしい方に食べてもらいたいと思いますよ。どうぞ召し上がれ」
そうね、捨ててしまうくらいならば、とあり難く頂くことにしてお辞儀をすると。
「それでは、アデュー」
立ち上がり胸に手を当てて足をクロスし私に頭を下げレジに歩く紳士に私も頭を下げて見送って。
ティラミスクラシコ食べながら
「アデューってなんだよ」
とググった。
それが紳士との出会いの日だった。
最初のコメントを投稿しよう!