真昼に落ちた流れ星

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

真昼に落ちた流れ星

『困った 困った こんなはずじゃなかった』 太陽の光は白すぎて  透き通る緑の炎が目立たない 彼女を待ちわびていた 世界中の学者は 真昼の空から 誰一人見つけはしなかった 『困った 困った   こんなはずじゃなかった』 泣いている彼女は右往左往 ポロポロ ポロポロ 強すぎる光の中で 透明な涙を流して歩く 『困った 困った   こんなはずじゃなかった』 誰も彼女に見向きもしない 誰も彼女を褒めもしない 誰も彼女を見つけない 1人の青年歩いてた 透明な涙の上を歩いてた 1人の青年 悲しくて 下を向いて歩いてた コンクリートの上に キラキラ光る薄緑、透明なのに じっと目を凝らすと チカチカ キラキラ 薄緑 1人の青年 少し前を見て歩き出す  ゆっくり 確かに 歩き出す 1人の青年 彼女を見つけた 泣いてる星を見つけた 『困った 困った こんなはずじゃなかった』 「どうしたの」 『空が高くて 帰れない 昼が眩しくて 目立てない  皆が待っていてくれるから 全部の勇気で飛び降りた  なのに 誰も見つけてくれない  なのに 誰も愛してくれない  だから空に帰りたい』 「気球を使って 空まで上がろう」 1人の青年 10年かけて気球をつくった 作った気球に雲たちが怒った 空を漂うのは わたしたち  星は動かないものか 落ちるもの 『困った 困った   こんなはずじゃなかった』 1人の青年 さしだした 「この気球の中に水を入れ 魚を空で愛でられます」 「梯子(はしご)を使って空に行こう 月にまでなら届くはず」 20年かけて 1人の青年 月まで届く梯子を作った 月まで行くと かぐや姫に怒られた 月はひとつで目立つもの 星は瞬くか 流れるか どちらかでしょう  かぐや姫を怒らせた 『困った 困った  こんなはずじゃなかった』 1人の青年差し出した  「僕達降りたら この梯子 あなたにあげます  これで毎日 地球のお団子 食べられます」 「ロケットを作って 宇宙まで行こう」 1人の青年 80年かけてロケットを作った 1人の青年 老人になっていた ひとりでもなくなっていた 美しい星と よぼよぼの老人 ロケットにのった 真暗な宇宙まで来たとき 緑に輝く彼女が言った  『私 美しいでしょう』 「あぁ とても」 『あなた ひとりじゃないでしょう』 「あぁ そうだとも」 『あなたは もう 生きてはいられないのでしょう』 「あぁ そういうことだから お別れだ  本当に本当の お別れだ」 星を愛した老人は ポロポロ 泣いた 「困った 困った  こんなはずじゃなかった   もっと早く 君を空へ返すべきだった」 美しい緑の炎に包まれて 星は老人を抱き締めた 『あなたが私を 見つけてくれた  あなたが私を 宇宙(そら)に返してくれた  ……だから 思うの  せっかく空に帰って来たのに  せっかくあなたが人間を終えるのに  もう 流れる必要はないのだと  わたしは空に留まるわ  あなたは私の傍で星になる  だからもう 泣かないで すべてを燃やして 星になりましょう』 老人は老人でもなくなった 緑に燃える星の傍 緑に染められた 新しい星が 満天の夜空で輝き出した あぁ あの 一等美しい 寄り添う 緑の星が  降りることは ないでしょうね 星降る夜に かぐや姫がそう言った
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!