星降る夜に

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見上げた夜空は まるで宝石を散りばめたような 美しく光り輝いた星でいっぱいだった 毎日見ていた何もない夜の空とは違う。 別世界のようだ。 手を伸ばせばその星のひとつに手が届きそうで、その美しさに俺は感動した。 「なんて綺麗なんだ」 白い息を吐きながらオレは思わず涙が出た。 だが、その涙が感動によるものでないことはすぐにわかった。 自分の足元を見ればわかる。 そこが地獄だということに。 静かな森に響き渡っているクラクション。 鼻につく血生臭いにおい。 俺は横転したワゴン車の上に立っている。 車のボンネットは酷く凹み、窓ガラスは割れて無残な状態だ。 這い上がろうとしたのか、後部座席の窓ガラスからは女友達の血塗れの腕が力なく垂れ下がっている。 もうひとりの友は、車の底で横たわったまま動かない。 手足は折れ、その首は体と正反対の方を向いていた。 運転席には親友がいる。 流星群を見に行こうと、俺たちを誘った張本人。 親友はハンドルから飛び出した袋に顔を埋めたまま動かない。 見れば親友の腹にシートベルトが食い込み、血が流れ出ていた。 そして、車の外には俺の好きな人がいた。 いつも明るくて、しっかり者の彼女。 流星群を見ることが出来たら、俺は彼女に告白するつもりだった。 そんな彼女は何故か大木に寄りかかるように立ち尽くし、俺の方を見て微笑んでいた。 が、その目はすでに生気を失い、彼女の腹からは大木の鋭い枝が突き出ていた。 ―なんでこんなことになったのか。 流星群を見るために、俺たちは親友の車で山の上にある展望台に向かっていた。 途中まではかなり順調だった。 車内は流行りの音楽と笑い声で包まれていた。 告白を決めていた俺は、彼女の笑顔を見るたび胸が高まった。 それを隠すのに必死だった。 山道を走り、展望台まであと少しというところで、突然車の前に黒い影が飛び出してきた。 「危ない!!!」 親友は叫びながらハンドルを切った。 車は車道からはみ出し、ガードレールが途切れたところから暗い森へダイブした。 大きな衝撃とともに俺は意識を失った。 目が覚めた時、眩しい光に目が眩んだ。 俺はその光に向かって必死でよじ登った。 その光が一体何だったのかはわからないが、光の先は横転した車の上だった。 周りは薄暗い森。 聞こえていた友の笑顔も笑い声は消えてなくなった。 俺はパニックになりながらも、ポケットの携帯電話を取り出した。 そして、震える手で助けを求めた。 その時、ふと夜空を見上げると、雲一つない満天の星空が広がっていた。 激しい動揺で波打つ心が、穏やかになっていくのを感じた。 空の彼方に、いくつもの星が流れていった。 同時に、今まで気づかなかった体の痛みと血の味を感じた。 そういえば、流れ星に願いを込めると叶うと聞いた。 ならばと俺は願った。 もしも願いが叶うなら、どうか時を戻して欲しい。 それが叶わないのなら、この美しい星空を消し去って欲しい。 星降る夜に、俺はひとり地獄の中で待った。 そのうち遠くからサイレンの音が聞こえて来ると、耳元で声が聞こえた。 一瞬、友人が生きていたかと思い喜んだが違った。 その声は地を這うような声々で、 「ドウシテ……オ前ダケ……」 生き残った俺に対する恨み言に聞こえた。
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