捕まえないで

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「くそッ…どうして、フリーズ直してバックアップとるだけで、こんなに時間かかるんだよ」 総務の女性陣にキャーキャー騒がれた挙げ句。散々引きずり回されて、気付けば2時間近くコキ使われていた こっちだって暇じゃないんだ。 俺はもう二度と総務部には行かねぇぞ やっと部屋に戻れば、カタカタとキーボードを鳴らす音が聞こえてくる 戸花はじっとディスプレイを眺めながら、真剣な面持ちで作業を続けていた。 …この様子じゃ、多分昼飯も食ってないな 「…戸花、戻ったぞ」 「ひゃぃ!」 後ろから肩を突っつけば、なかなか鳴かせ甲斐のある声が返って来る 振り替えって顔を上げた、その綺麗な瞳と目があった 「笹倉さん…は、早かったんなぁ…」 「早くはないだろ。無理やり逃げ帰ってきたんだ」 椅子の背もたれに寄り掛かれば、ギッ…と軋む音で戸花の肩がピクリと跳ねる 俺を意識しているのがよく分かった… 「ははっ…人気者も大変だ。い…今、お茶入れて…」 「待てよ、戸花」 立ち上がろうとした戸花の肩を掴んで、再び椅子の上に引き戻す。 逃げられないよう前に立つと、顔に掛かっている分厚い黒縁眼鏡を摘まみ取った …やっぱ、可愛い顔してる。 日焼けして赤みがかった暗いベージュの髪に、たれ目がちの優しい瞳、小さくて愛らしい鼻口と女っぽい丸顔… 全部が好みすぎて、これが運命でもいいんじゃないかって気さえする。 この顔は、俺のために生まれてきただろ 「さ、笹倉さん…?」 「…なぁ、俺に話ってなんだよ」 なぜ、今まで気が付かなかったんだろう まずβの顔に興味がなかったからな… そもそもこいつはどうやって、俺にΩだってことを隠してきたんだ? 抑制剤を飲んでたって、発情期には匂いそうなもんだが… 「ッ……そのっ、あの な…」 逃げ場を無くした瞳が泳いだ 緊張し、強ばった肩が軽く上がっている 「…なんだよ、早く言わねぇと…お前がΩだってこと、他の奴等にバラしちまうぜ」 勿論、言い触らす気なんて更々ない。 どのみち俺のものになるとは思うが、他のαに近寄られたら目障りだ しかし…それを聞いた途端、 戸花の顔から血の気が引いてに、その瞳にサッと恐怖の色が浮かぶ 「ツッ…!や、やめっ…ダメでさッ、黙っててくだせ…さい!」 …この慌てよう、 勘づいてはいたが…やっぱこいつ、会社にβだって偽ってるのか バイトでも、何でも…必ず働く際には自身の性を提示しなくてはならない 会社内で問題が起きないようにする為には仕方がないが、そのせいで面接すらさせてもらえないΩがいるのも確かだ… ここで雇われたΩは、本人の希望関係なしに営業部に送り込まれる。 接待や営業先で、Ωはお偉いさん方に気に入られやすいからな αの俺と、この狭いシステム課に配属されるはずがないんだ…
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