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◇ ◇ ◇
あれは、俺が小学三年の時の夏だった。
その日は夏祭りの日で、祭りの中心である神社にはたくさんの人が集まっていた。
少し離れた場所にある家にも聞こえてくる祭囃子の音に、楽しそうな人の声。暗くなりはじめ、ぼんやりと点る提灯の明かり。何もかもが心を踊らせるもので、俺は「遅くならないのよ」とか色々と注意事項を並べる母の声を聞き終わるより前に、小遣いを握り締め駆け出していた。
神社の敷地には様々な屋台が軒を連ね、美味しそうな匂いでいっぱいだった。まだ夕飯を食べる前で空腹だったこともあり、俺は現地で合流した友達と一緒にすぐさま食べ物の屋台へと走った。
適度に腹を満たすと、今度は遊びたくなってくる。俺たちは相談しあって、射的に行くことにした。
……が、射的には人だかりができていて、なかなか順番が回って来そうになかった。
「……なんか、今年は人が多いな」
射的を諦め歩き出した友達が、ポツリとこぼす。辺りを見回して、「たしかに」と、俺たちも頷く。
この祭りは、ここら近辺で一番デカイ祭りで、毎年たくさんの人が来る。だから町内の人だけでなく、他の町からも遊びに来るから知らない子とかもたくさん見かける。だから、人が多いのもいつものことのように思えたけど、この年だけはいつもとは様子が違うように思えた。
それが、たまたま聞こえてきた大人たちの話し声だった。
「どうも情勢が思わしくないらしい」
「噂じゃ、私たちに混じって偵察しているって話だ」
「そろそろ始まるのかもしれないな、俺らも覚悟しないといけないかもな……」
「こうやって楽しめるのも、今年が最後かもしれないな」
などと、意味は分からないが不安を煽るような話し声だった。
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