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目覚め
「菅野先生に無視された。。。」生来は、その事実に唖然としていた。「やっぱり、この一ヶ月、避けられてたのかな。」一気に手足が冷たくなる感覚があった。
「大、アーユ オーケー?」
ジェームスに体を引き揚げられるように、立ちあがった。
「大、さっきの人、知り合いなの?何かあったの?」
「。。。。」
「顔色悪いから、外の空気でも吸いに行こう。」
ジェームスは、気力をなくした生来の腕を掴み、図書館の外へ連れ出した。夏真っ盛りの空は入道雲を浮かばせていた。
ちょうど、木陰の下にベンチがあったので、二人はそこへ腰をおろした。ジェームスは買ってきた、よく冷えたお茶を生来に渡した。
「大、良かったら、僕に話して。前にファミレスで一人で抱え込まないって言ったよね。誰かに話すことで、気持ちは楽になるよ。」
菅野が自分の担任だと言うことを知らないジェームスには胸の内を話してもいいかなと思った生来は、深い傷を癒すべく、口を開いた。深呼吸を一回。
「あの人が俺の好きな人。もう、一ヶ月も会ってなかったんだけど、今日、何にも言わず、俺の横、通りすぎてった。」
セミの声がミーンミーンと耳にこだまし、黙れと叫びたい気持ちになった。ジェームスはじっとその告白を聞いて
「大もゲイだったんだ。僕と同じだ。そっかぁ。」
と呟いた。
「え。。。俺?ゲイなの?」
自分のセクシャリティーについて、今まで、考えたことがなかったので、思わず、ジェームスに秒で確認してしまった。
「大は、いつから、男が好きだと気がついたの?」
「気がついたというか、初めて好きになった人があの人だったんだ。男だからとかは、わかんないや。」
生来は、お茶を一口飲んだ。ペットボトルが冷たくて、持ってて、ひんやり気持ちいい。徐々に気分も回復してきた。
「僕は物心ついた時から同性しか興味なかったよ。幼いのにすでに自覚があったんだ。」
ジェームスが足元の影を見つめながら、今まで、見せたことのない表情をしていた。
「僕の暮らすカリフォルニアは同性同士の結婚が認めらているんだけど、それでも、男を好きだと誰かに打ち明けることはできなかったんだ。苦しかった。ありのままの自分でいるためには、社会的に不公平な立場に身を投げないといけないから、家族も巻き込むかもしれないんだ。なかなか、勇気が必要だよ。」
下を向いていた顔をまっすぐ上げ、頭上の真っ青な空で、飛ぶ一羽の鳶を見ていた。
「まぁ、僕は自分のアイデンティティーのために、自分らしく生きることを選んだんだけどさ。」
そういうと、ニッコリ笑い、いつものジェームスになった。
「あの彼、大より、年上なようだし、いろいろ考えると、前に進めないんじゃないかな?まぁ、さっきの図書館での表情みる限りは、あれは、男のジェラシーって感じだったけどね。大、めちゃくちゃ愛されてるじゃん。」
ジェームスは自分の体をコツンとあてて、ウィンクした。
「え。。。妬いてるって。。。」
生来は思ってもない話しに、驚きを隠せなかった。思い返せば、あの時の菅野の表情は、いつもの穏やかな雰囲気と違い、何かに怒っているようにも見え、そんな様子を見て、生来は嫌われたと感じたのだったが。。。
「今日は、この後、僕と食事せずに、彼の元に行った方がいいと思うけど、大!」
そういうと、ジェームスは、勢いよく立ち上がった。太陽はジリジリと焼けるように熱かった。
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