衝動

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衝動

「にゃあ」 飼い主を見つけたミーコがどこからともなく、近づいて来た。ミーコを抱きしめて、夜の住宅街を歩く。どのくらい、歩いたんだろう。気分が落ち着いてきた頃、周りまわってようやく、ヒルサイド産婦人科の前に着いた。 「にゃあ」 長い間、生来に抱かれていたミーコが軽やかにジャンプして腕から飛び降りた。飼い主の胸のうちを感じとって、夜の散歩に付き合ってくれたのかもしれない。「ミーコは、これから、夜の散歩かな。そろそろ、俺は家に帰るかな。」玄関灯の下で、家の鍵をカバンからごそごそ探していた時に、ふいに菅野の声が聞こえたような気がした。 「ミーコ、お前、自分家に入れないの?生来に追い出されたのか?いじわるな飼い主さんは、どこだ~。」 といつもより甘めの菅野の声がした。生来は声のする方へ向かうと、ミーコを抱きながら、菅野が辺りをキョロキョロしていたが、生来は、もじもじして出れずにいた。 「せいら~、いるの?ミーコ、家に入れなくて困ってたぞ~」 暗闇の中で生来を見つけた菅野が近づいてきた。だいぶ、酒くさい。速まる呼吸を整え、生来も菅野の方へ向きあった。 「先生、酒くせ。あれ、メガネ?」 メガネ姿のほろ酔い菅野がミーコを抱きながら立っていた。 「コンタクト買い忘れたんだよ~ん。」 年下の生来がいうのもなんだが、メガネ姿の酔っぱらい菅野はすごく可愛かった。もう、このまま、家に帰っても、絶対に寝れそうにないと思い十九才の勢いから菅野に 「先生、今から映画一緒に観ね~?」 とできるだけ軽く誘ってみた。菅野は一回、メガネを触ってから、生来を見て、いともあっさり 「いいよ。」 と誘いを受けたのだ。 菅野は居間に座り、腕組みしながら、考えていた。生来が風呂に入ってから、家に来ると言ったので、こうして、待っているのだが・・・「俺は、道を外してないよな?生来はいち、男子生徒で、俺を兄のように慕っているだけ。仲良く映画を観る。それだけだ。」菅野はまだ、酔いの覚めない頭で自分自身にいい聞かせていた。 バーベキューは楽しかった。みんな、良い人達ばかりだった。堀口先生も酔っぱらって、いきなり、 「私、海の人魚になりま~す。」 と砂浜へ走りだすし。捕まえて、引き戻すのには苦労した。 充実した休みだったのだが、頭の隅にはずっと、生来がいた。最後に会った時にみせた、悩ましい顔が離れなかった。だから、さっき、映画に誘われた時は、いつも通りで、ほっとしたのだ。 ガラガラと戸が開いた。シャンプーの香りが部屋を満たした。 「先生、起きてる?」 生来がティーシャツに短パンで入ってきた。目のやり場に困るような長くて、白い足。 「頑張って、起きて、待ってたぞ~。早く映画観ようぜ。」 と手招きした。 「何から観ようか」 と生来がどかっと隣に座った。菅野が時計をみながら 「もう、遅いからな、眠くならない、やつがいいな」 「じゃあ、ロッキーにするか」 と生来がDVDをデッキに入れ、菅野が部屋の電気を消した。 暗闇の中、妙な雰囲気の男二人。決して間違えでも起こらぬよう、見えない緊張の糸が張り巡らされているかのようだった。映画が中盤に差し掛かった時に、生来が菅野を覗きこむように 「先生、寝てない?」 と確認してきた。少し濡れ気味の髪が艶っぽかった。 「生来、まだ、髪濡れてるけど、風邪引かない?タオル、持ってきてやるよ。」 と菅野は立ち上がり、風呂場にタオルを取りにいった。 バサッ 生来の頭にタオルが落ちてきて、そのまま、菅野の手が優しく、濡れた生来の髪の毛を拭いた。 この状況に生来は居てもたってもいられなくなってしまった。「触れないでほしい・・・おかしくなりそう・・・」生来は自分の髪を壊れ物を触るかのように、優しく拭く菅野の手を掴むと、彼を見上げた。 「先生、キスしたくなった・・・」 握られた手の熱さをひしひしと感じ、一瞬、何が起こったのかという驚きの顔で菅野は生来を見た。見つめ合う目。こうなるのは出会ってから時間の問題だと菅野は薄々感じていた。 自分が何者かなんて衣を脱いで、ある意味裸になって、欲望のまま生来を求めたい。菅野は聖と俗の間で揺れていた。神様に状況を託したかった。 「生来は天使みたいだな」とその美しい姿に見とれていた瞬間、生来の唇が荒々しく重なってきた。菅野のメガネと生来の高い鼻があたった。十代の勢いのキス。 「俺が先生に無理やりキスをしたんだ。先生は悪くない。」 唇を激しく重ねながら、菅野は床に倒された。テレビ画面では、試合に挑むロッキーが写しだされ、馬乗りになった、生来は菅野のメガネをはずした。 「これ、じゃま。」 そして、貪るようなキス。 「生来・・・ダメだよ。今なら、戻れる。」 生来の舌が口に入ってきたが、菅野はもつれる舌と舌の隙間から訴えた。 「あ。う~ん。」 菅野の口の中をくまなく舐め回すように、激しいキスは続いた。 「体が熱い。」 菅野は自分のモノが硬く反応してしまっていることに気がついた。生来の手が菅野の下着に滑りこむ。 「せいら、そこは、マズイ。。。あっ。」 固くなったものの先端を生来に触られ、菅野はおかしくなりそうなくらい興奮してた。性行為は以前にも彼女が居たので、普通に経験はあったが、生来は男。この状況はあってはならないと頭でわかりつつも、体は未知なる経験を求めていた。 「生来。。。やめろ。。。」 菅野のズボンの中で、ぐちゅぐちゅといやらしい音がする。生来の手は絶えず、菅野のモノを激しく、ゆっくりと上下に動かす。 「世界中の誰もが先生を責めても、俺が許す。だから、俺のことでいっぱいになって。」 生来も無我夢中だった。菅野が少しでも自分に対して好意があるなら、生徒だからというだけの理由で拒否してほしくなかった。「俺は、菅野先生が好きなんだ」 この想いを自ら認めてしまうと、簡単には引き下がることはできなかった。好きすぎて、涙がでそうだった。 「生来、出る。ダメ。」 菅野が生来の手を外そうとしたが、絶頂はすぐにきてしまい、間に合わず、生来の手の中で射精をしてしまった。 「ごめん。生来。本当にごめん。俺、最低だ・・・」 放心状態で菅野は謝ると、そんな彼を落ち着かせようと、生来の腕が菅野を抱きしめた。 「俺が先生を犯した。罪を背負うのは俺だから、謝らないで。俺が、先生をめちゃくちゃにしたんだ。ごめんね。」 菅野は静かにその言葉を聞き、そして、生来をしっかりと抱きしめた。長い抱擁の後、何かを決めたような菅野は 「生来ばかり、罪をおわせる気はないよ。」 と生来の上からおい被さる体勢になると、二人の位置は反転した。生来を前に、自制心なんて、いとも簡単に崩れてしまったようだ。頭で理知的に考えたことなんて、脆く、頼りない。 菅野が生来の唇を噛み、そのまま、生来の下部に頭を下げ、生来の反り返るくらい興奮した若いモノを口に含んだ。 「あっ。う。。。」 生来は性行為事態は全くの未経験者なので、まさかの事態に体が激しく反応していた。 自分の大切なところに、菅野の形の良い頭があった。清潔に短く整えられた柔らかい毛。少し汗ばんでいる体格のいい、褐色の男の体が生来を気持ちよくしようと努めていた。 生来は、女子から常に注目を浴びていたが、告白をされたり、したりはなかった。彼女がいてもおかしくない年頃だが、常にきゃあきゃあ言われてたとしても、いざ、誰かと付き合うということはなかった。まさか、初体験が同性だとは想像もしてこなかった・・・ 「あっ、いっちゃいそう。あっ、気持ちいい・・・先生・・・あ・・・・」 生来は快感のあまり、腰を動かしていた。菅野の口の動きが速くなる。生来は最後、全身をびくびくさせながら、絶頂に達した。 「飲んじゃったの?」 熱ぽい目で菅野を見下ろしながら聞く。こくりとうなづく菅野。 「あ~、先生。」 と生来は目の前の愛しい男を抱きしめた。
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