夏 はじまり

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夏 はじまり

蝉の声が賑やかさを増し、暑い夏が廻ってきた。菅野は、生徒たちが帰った後、職員室で期末テストの採点をしていた。「生来大」の名前の解答用紙が現れ、菅野は深く呼吸をした。 ゴールデンウィーク以来、学校内で、菅野は普通に教師として振舞えていた。極力、接することは控えてたし、周りからみても、不自然なことはなかったと思う。生来も、以前のように不登校になることもなかった。授業態度もまじめで、交友関係も問題ないようだった。学院側も、生来の両親もこの一見、万事快調な状態は菅野の手腕にあるものと考え高く評価していた。 ただ、これには、裏があり、「先生が、俺の側にいる限り、やるべきことはやるよ」となかば契約上成立したような状態であった。実のところ、もしも、菅野が二人の関係を終わらせようものなら、今の好調が続くとは思えなかったし、それほど、生来と菅野の関係は常に、張り詰めた糸で結ばれた状態であった。 全ての生徒の採点が終わり、菅野は帰りの支度の準備をしていた。今日は金曜日なので、生来が、夜、家に来るかもしれなかった。大抵、そのまま、週末まで一緒に過ごすことが当たり前の流れになっていた。 家に居る時は、勉強を見てやることもあれば、映画を観たり、誰も居なくなった頃を見計らって、夜の散歩に出ることもあった。 生来が、今年の夏は花火をしたいと言ってたことを思い出す。帰りに、コンビニにへ寄って、花火を買って帰ろう。生来の未来を考えると、自分の本音を隠しがちで、どうしても、受け身になってしまう。二人の未来に希望を持つことはしたくなかったし、いつか、別れを言う覚悟もあった。 ビールとつまみ、花火が入ったビニールを下げて、坂道を行く。夏の夜、熱を吸い上げたアスファルトからの熱気がすごい。まるで、サウナ状態なので、汗をかきながら家路へ向かった。「家に着いたらまずは、風呂に入ろう。」家々の灯りが真っ暗な帰り道を照らしていた。 生来は、下校途中、市営の図書館に居た。東日本大震災に関しての本や新聞を読んでいたのだった。 近頃は、菅野と会う前までの時間に、ここへ来て、震災関連の書物に目を通していた。三月十一日のあの日、菅野が何を見て、何を感じたか、想像をめぐらし、少しでも彼の痛みに触れたかった。 あの時、自分は中学生で、福島の原発の事故があり、日常にあらゆる規制がかかったのを憶えていたが、不登校だった自分は、その未曽有の事態にどこか、傍観者の目でいた。 連日、テレビやネットでは、津波が家や車、人を飲み込んでいく映像が流れていた。残酷ではあったが、デジタルな媒体を通した映像はどこかリアリティーが無かった。それは、今となれば、自分に原因があったのだが。。。 兄が亡くなり、両親から過度の期待を感じるようになった「お兄ちゃんが居たら、きっとこうしていたはず」という考えが常に大の思考にあった。 そのうち、自分が何者かが分からなくなり、いつしか、ぷつんとショートしてしまった。 学院の中等部は、この世にもう居ない兄の存在がいたるところに存在していて、その辛さからも徐々に、学院に行くことができなくなっていた。両親は、大がこうなってしまった責任が自分たちにあったと自覚し、腫れ物に触るように接してきた。大は彼らの気持ちがよく分かったが、何か大きなきっかけがないと一脱できない状態にあった。 そんな時、菅野に出会い、初めて穏やかな安心感を感じた。むろん、大好きだった兄に容姿が似ていることが心を開く要因ともなっていった。 空は夕暮れ色に染まり、図書館に居る人もまばらだった。生来はこの雰囲気が好きだった。 ゆっくり、震災関連の資料を目にし、震災で家族を流されたある人の手記に手が止まった。 震災後、一か月開け、津波に流された人たちの遺体が引き揚げられ、近くの公民館に安置去れていたそうだ。 入口には簡易的な長机が設置され、その上には分厚いファイルが置かれ、中を開くと、身元不明の遺体とその人が身に着けていた遺留品の写真がファイリングされていた。遺体は水を含みすぎて、判別が難しかったと記されていた。 この手記を書いた人の、忘れらえない光景。 隅の方で、ぽつんと安置された、オムツをしたままの赤ん坊の遺体。 一体、どのような状況で流されたのであろう。この赤ん坊を迎えに来てくれる家族は生存しているのだろうか?それとも、苦しみのない黄泉の世界へと一緒に旅だって行ったのか?赤ん坊の大きさから、生まれて数か月だったことがうかがい知れた。 何のために人はこの世に生れ落ちるのか・・・ この手記ではその様に締めくくられていた。生来は、読み終わり、自分自信にも、この疑問をぶつけずにはいられなかった。 家に着いた菅野はTシャツに短パンと楽な格好に着替えた。留守にしていた部屋は熱がこもっていて、むわ~とした空気がたまらなかった。 空気の入れ替えをすべく、縁側の窓を開け、外にでた。今宵の三日月がミーコの爪のようだなと思い、そのまま、どかっと座り夕涼みをしていた。生来に会いたいなと思う。けれど、立場上、自分から電話をかけることはないし、付き合ってるわけではないので、約束もしない。生来が菅野に会いたいと思えば、成立する関係だった。「花火買っちゃったけど、いつ、できるかな?」大の字に寝そべりながら、今晩、来るかもしれない、生来のことを想った。 どのくらい寝てしまっていたのか・・・目を覚ますとテレビを観ている生来が居た。 「今、何時?」 と慌てて、飛び起きた。 「まだ、十時だよ。母さんの作った煮物があるから、食べて。」 とテーブルを指差した。テーブルにはラップのされた煮物ときゅうりの南蛮漬けが置いてあった。 「味噌汁はコンロのとこにあるよ。鍋に入っているから。」 「生来、ありがとうな。お母さんにもいつも、いつも申し訳ない。。」 「母さんは、いつも、いつも、うちのバカ息子が先生のところにお邪魔して申し訳ないって思ってるみたいだよ。」 生来は、そういうと、立ち上がり、台所で味噌汁を温め始めた。 「生来、悪い。俺やるから、ありがとう。」 菅野も台所へ行った。モデルでもおかしくない、すらりとした生来が温かいお味噌汁を椀によそってくれていた。生来のひとつひとつの立ち振舞いが菅野を感動させる。「こんな美しい男が何で、俺なんかがいいんだろう」と首を傾げたくなる。生来さえ、その気があれば、彼女はすぐにできるだろうし、苦労のない楽な道なんていくらでもあるだろう。そんなことを考えると、卑屈になってしまう自分もいて、思わず、余計なお世話なことまで言ってしまう・・・ 「生来、お前、いい旦那さんになるよ。疲れた奥さんにこんな風に味噌汁だしたら、夫婦円満だな!」 その瞬間によそい終わった味噌汁がコンロ近くの台にドンと力強い音で置かれた。 「お前、こぼれるよ。そんな、力強く。。。」 「先生、よく、そんなこと平気で言えるな!奥さんとか、夫婦円満とか、なんだよ!」 明らかに機嫌を損ねた生来がいた。 「俺は、先生のためにやってるの!先生はそれに感謝してるだけでいいんだよ!余計なこと考えんなよ。」 と髪の毛をかき揚げ、明らかにイラついた様子で居間に行ってしまった。 「せいら~、ごめん。そんな、つもりなくて。俺はただ、そうなったらいいんじゃないかっていうか。。。お前が幸せならいいっていうか。」 菅野は慌てふためきながら、味噌汁を持って生来を追った。生来はあぐらをかきながら、顔つきは険しさと悲しさがいりまじった表情をして、菅野を見つめていた。 「俺の幸せは俺が決めるよ。」 「・・・・」 「先生、俺、産婦人科継ぐよ。そのために、大学受験も頑張ろうと思う。親父の後を継ぐのとか考えたこともなかったけど、今は、産婦人科医になって、新しい命の手伝いをしたいと思ってるよ。今の目標はそれだけ。奥さんとか結婚とかははなから考えもないよ。」 生来の目から強い意志が感じとれた。ここのところ、震災関連の物を読んでいて、未来の自分には何ができるか考えていた。将来、結婚して、家族を持つより、大事なこと、自分はどう生きたいか。それが定まってきた気がした。 これも、菅野との出会いによって開かれた道だと思う。人は愛する何かがあって、強くなり、希望や夢を語れるようになるのではないか。まだ、十代の生来は曇りのない瞳で真っ直ぐ、菅野を見ていた。 「生来、頑張れよ。応援してる。お前、すごいな。カッコいいよ。」 将来の展望を語る生来を目の当たりにして、誇らしいやら、置いてきぼりになったような複雑な菅野だった。「俺は、普通とか、常識とかに縛られすぎてるのかな・・・・」菅野は、生来のいれてくれた味噌汁をすすった。 「アチッ‼️」 「それ、熱いよ。俺、先生に変なこといきなり言われて、思わず、グツグツ煮込んじゃったから」 と可笑しそうに生来が笑いながら、菅野の顔を覗き込んできた。 「ここ、火傷した?」 と生来の指が菅野の唇を優しくなぞった。そのまま、男同士、慣れた様子で足も手も絡ませ、何も纏っていない身体になっていた。生来の白い肌が興奮からうっすら赤みを帯び、モノはすでに反り立ち、触ってもらうことを待っていた。菅野は唇を生来の胸のピンクの突起物へと移すと、吸ったり、柔らかく噛んだりするうちに、すぐにピーンと反応した。 「あ~。」 「気持ちいい?」 「うん。先生、あそこも触って。」 菅野は舌で乳首を弄りながらも、手で、生来のモノを扱き、お願いを叶えてた。 「あっ、いい。先生、入れて。」 もう、すでに生来の液でぬるぬるになっている指を彼のアナルに一本、ゆっくりと入れた。ぐちゅっ。いやらしい音がした。二本。痛くないように、集中し挿入した。 「あっ。」 「痛い?大丈夫?」 初めて二人が身体の関係を持った夜以降、徐々に菅野は生来のアナルを優しく馴らしてきた。まだ、菅野のモノを挿入するには至ってないのだか、指が、二本、三本と入るようになり、生来も痛みより快楽の波が強くなってきた。 「今日こそは、先生と最後までしたい・・・」 途切れる声で懇願する生来を見ていると、自制心を保つのが辛い。「俺もいれたい。ひとつになって、お前を感じたいよ。」と菅野は心で思っていた。けれど、若い生来に傷をつけたくない気持ちもあって、なかなか、その先はいつも、進めず、生来はおあずけ状態だった。「俺がリードしないと、ダメだ。」と生来は、この日もある瞬間を悦楽の最中待っていた。 「菅野先生・・・」 生来は、菅野を下にし、膝で立つような状態でアナルに指を挿入されていた。ぬちゃ。 「あ~。先生の欲しい・・・入れちゃうよ」 ズブッ 「あっ、ん」 生来は押し寄せる快感の絶頂で、菅野の固くなったモノを掴むと、無理矢理、どうにか、自分のアナルに入れ、強引に腰を動かし始めてしまった。 指と違って、かなりの違和感と痛みだったが、ようやく、菅野を自分のものにできた気がし、懸命に自分の中に、それを受け入れた。 「あっ、あ~。生来、お前。。。」 菅野から、思わず大きな喘ぎが思わずでてしまう。生来の腰が、一定速度で上下していた。きつくて、狭い、男の中で菅野は、今まで感じたことのないような、快感に溺れ、今宵も、一気に堕ちていった。 その晩は何度も何度も、菅野のモノは生来の中に入り、射精をした。菅野の黒い肌が汗でギラギラ光る。筋肉には汗がしたたり、ゴツゴツした大きな手は生来の細い腰を押さえていた。 「先生、もう、ダメ。これ以上は・・俺、壊れる」 一旦、スイッチの入った菅野は、ただ、ひたすらに生来の肉体に没頭していた。 教師として、社会的モラルの中で正しく振る舞っているのは、本当の自分ではないかもしれない。もっと、感情の激しい、野性的な自分がいるのかもしれない。目をつぶりながら、聞こえてくるのは、自分の荒れた息づかいと、美しい男の刹那な叫び・・・ 「あっ。」 白い液が飛び散る様は、まるで、菅野の眠っていた感情のほとばしりのようであった。
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