流星の愛

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「あい」と別れたのは一週間前であった。  二人の価値観、そして家族の反対などの障害によって、僕は彼女との将来に踏み切る事が出来なかった。「あい」は新しいパートナーを見つけてこの町を出ていくと告げた。  僕は「あい」を引き留める勇気が無かった。  別れ際、「あい」の肩が小刻みに震えているのを僕は気づかないふりをした。  今晩、空には満天の星が輝いている。  手が届きそうなほどの距離に感じる。あの星々が隕石となって数日後、地球に降り注いでくるそうだ。  そうなれば、この星に住む生き物は全て消滅するということである。 「あい・・・・・・・」このニュースを目にした時に、一気に僕の本当の気持ちが溢れてきた。  あの時「あい」と別れたのは間違いであった。  そう、僕がこの世から消える時、この星がなくなる時に一緒にいたい人・・・・・・、それは「あい」だったのだ。  僕は今になってそれに気づいた。  外に飛び出すと、そこには避難する為に移動していく群衆達。しかし、彼らがどこに逃げようとも決して助からない。そう、この星の生物は全て息絶えるのだ。 「あい・・・・・!」僕は群衆を掻き分けて駅に向かう。「あい」の住む町を目指して・・・・・・・。    いつもの倍以上の時間をかけて駅に到着するが、駅は機能していない様子であった。こんな時に電車を走らせたところで何にもならないと思い駅員達も仕事を放棄して避難したのだろう。 「畜生・・・・・・・」仕方なく僕は、歩いて隣の町を目指すことにする。どこもかしこも逃げる人々、訳も分からず親に手を引かれて行く幼い子供。車も渋滞している。  途中で鍵の掛かっていない自転車を見つけて、それを拝借した。もはや、警察も機能していない。コンビニなども暴徒と化した人々に襲われている。それを制止するものもいない。若い女性など一人で外を歩くことなど、想像をするだけでゾッとする。 「あい!!」アパートの階段を駆け上る。「あい!!」僕はドアを叩く。 「うるさいね!!」となりの部屋から年配の女性がドアを開けて顔を出す。 「あい・・・・・・・、この部屋の人は、どこに!!」僕は謝る事もせずに問いかける。 「ああ、あの子なら男の事一緒にさっき出て行ったよ。どこに行っても助からないっていうのにね」女性は吐き捨てるように言った。「さっき、出て行ったところだから、まだ近くにいるんじゃないかしら」そう告げると彼女が扉を閉めた。僕は、軽く会釈をしてからアパートを飛び出した。 「あい!!あい!!!」大きな声でその名前を呼び続ける。しばらくアパートの近くを探すと、若い男と二人で歩く「あい」を見つけた。 「えっ、直樹・・・・・・・!?どうしたの・・・・・・・!」息を切らしながら後を追いかけてきた僕を見て驚いたようだ。 「ごめん・・・・・・。やっぱり、僕は・・・・・・・、僕は・・・・・・、君の事が・・・・・・・」 「えっ、私の事が・・・・・・・?」 「今更だとは解っているんだ・・・・・・・・・、でも、やっと気づいたんだ自分の気持ちに・・・・・・・、最後に・・・・・・、この世界の最後に一緒に居たいのは、そばにいてほしいのは君だってことに・・・・・・・」僕は隣にいる男の事を完全に無視していた。 「わ、私でいいの・・・・・・、本当に私でいいの」その瞳から涙が零れ落ちる。 「ああ、君しかいないんだ・・・・・・・。」僕は「あい」の潤んだ瞳をじっと見つめた。 「・・・・・・・、だめ、涙が止まらないわ」そう言うと僕の胸の中に飛び込んできた。 ★        ★ 「綺麗な星空ね・・・・・・・・、今にも降ってきそうだわ」時間が経過し、すでに夜中になっていた。僕達は、公園のベンチで空を見上げている。 「あと半日もすれば、あれが全部落ちて来るんだ」言いながら「あい」の肩を優しく抱きしめた。 「でも、平気・・・・・・・、直樹と一緒なら・・・・・・・・」優しい声でそう告げた。昼間の男性は「あい」の弟だそうだ。一人暮らしをする「あい」を心配して様子を見に来たそうだ。最後の時間を、僕と過ごしたいという事を告げると、彼は何も言わずに姿を消した。 「あい・・・・・・・」 「直樹・・・・・・・・、最後はそのあだ名でなくて、本当の名前で呼んで・・・・・・・」 「ああ、俊介・・・・・・・・」彼の名前は、相原俊介という。  星降る夜、いくつもの星々が地上に降りそそいだ。彼方(あちら)こちらで地表が輝いていく。  最後の時間・・・・・・・・、僕達を引き離していた幾つもの障害は消え去った。そして僕達は一つになった。                                     おしまい
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