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Fall out 短編/完結
流れ星に願いをかけるって?
そんなの馬鹿げた話だ。
だってほら、地球に背中を合わせて宇宙と向き合えば、こんなにも沢山星が流れている。流れ星なんて、なにも珍しいものじゃない。
そんな事がわかった夜、思考さえも闇に溶けていった万華鏡の星空。
「辛い事はね、ちゃんと口に出して言わなきゃ駄目よ。そうじゃないと、神様だってわからない、わたしだってわからないから」
「口に出してどうなるわけでもないさ。神様にわかったところで、ここまで降りてきて思し召しを頂けるわけでもあるまいし」
「でも、わたしならあなたを助けてあげられる」
風が冷たい季節になると、なぜこんなにも夜空は透明なのだろうか。まるで子供が宝石箱を真っ逆さまにひっくり返し、悪戯に散りばめたような星達。
アメジストやオパールやオニキスにガーネット、紅いルビーはペテルギウスか。
「なんでそこで黙るかな」
「黙ってなんかないさ」
「黙ってるじゃない」
「星を観てただけだよ」
初めて流れ星にかけたのは、願いではなく礼の言葉だった。エスケープに使わせて貰って、ありがとう。
「都合が悪くなるといつもそう。どうして? なんで? わたしに全部全部話して欲しいのに」
「話してるって」
「全部話してない」
「は?」
「弱いところ」
「抽象的でわからん」
「あなたの弱いところとか、わたしにだけは隠さないで欲しいから」
あれほど流れていた星が、どいつもこいつも定点に佇んでいる。
五秒……十秒、時間切れ。お星様もいい加減エスケープは許してくれないか。
「じゃあ、君はどうなんだ?」
「ん?」
「君は俺に全てを話してくれてるのか?」
「話してないよ」
天空から目を逸らした刹那、俺たちは向き合ったまま動かなくなった。いい大人二人が、もうどれくらい寝転がって天を仰いでいるのだろう。自転のリズムを眺めているはずなのに、永遠に時が止まっている気がする。
「これから話すから」
「これから?」
「そう、あなたが抱えてた荷物を下ろして欲しいから」
「……」
「あなたが荷物を預けてくれる時は、わたしもあなたに荷物を預ける。でないと、あなたは何も話してくれないでしょ?」
人が人に何かを捧げる事には、必ず何か理由が存在する。
人が人を慈しむ事には、必ず自己愛が存在する。
だから俺は、そんなものにはすがらない。
でも君の言葉は違う。自分の気持ちが自己愛なら、それを見せ合えばいい。
俺は俺のままでいい、君は君のままでいい。
君の全てを読まれている事が、眼前に広がる宇宙と同化したように心地良かった。
「俺も」
「ん?」
「いや、俺が、君を守ってやるよ」
『俺も君を守る』と言いかけて止めた。これでいいのだ、ぶつかり合えば良い。ぶつかり合って、何も隠さずに伝え合えば良いさ。
俺が、わたしが、そんな気持ちをぶつけ合って、壊れたら二人で考えれば良い。
「楽になろっか」
いい大人が二人して、寝転んだまま天を仰ぎ続けた夜。哀しみや苦しみの欠片が、少しだけ空へと還っていったような夜。
時が止まればいい。
そんな陳腐な台詞を今日だけは吐かせてくれ。定点に佇んでいた星が、一滴だけ夜空に流れた。
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