Fall out 短編/完結

1/1
前へ
/1ページ
次へ

Fall out 短編/完結

 流れ星に願いをかけるって?  そんなの馬鹿げた話だ。  だってほら、地球に背中を合わせて宇宙と向き合えば、こんなにも沢山星が流れている。流れ星なんて、なにも珍しいものじゃない。  そんな事がわかった夜、思考さえも闇に溶けていった万華鏡の星空。  「辛い事はね、ちゃんと口に出して言わなきゃ駄目よ。そうじゃないと、神様だってわからない、わたしだってわからないから」  「口に出してどうなるわけでもないさ。神様にわかったところで、ここまで降りてきて思し召しを頂けるわけでもあるまいし」  「でも、わたしならあなたを助けてあげられる」  風が冷たい季節になると、なぜこんなにも夜空は透明なのだろうか。まるで子供が宝石箱を真っ逆さまにひっくり返し、悪戯に散りばめたような星達。 アメジストやオパールやオニキスにガーネット、紅いルビーはペテルギウスか。  「なんでそこで黙るかな」  「黙ってなんかないさ」  「黙ってるじゃない」  「星を観てただけだよ」  初めて流れ星にかけたのは、願いではなく礼の言葉だった。エスケープに使わせて貰って、ありがとう。  「都合が悪くなるといつもそう。どうして? なんで? わたしに全部全部話して欲しいのに」  「話してるって」  「全部話してない」  「は?」  「弱いところ」  「抽象的でわからん」  「あなたの弱いところとか、わたしにだけは隠さないで欲しいから」  あれほど流れていた星が、どいつもこいつも定点に佇んでいる。  五秒……十秒、時間切れ。お星様もいい加減エスケープは許してくれないか。  「じゃあ、君はどうなんだ?」  「ん?」  「君は俺に全てを話してくれてるのか?」  「話してないよ」  天空から目を逸らした刹那、俺たちは向き合ったまま動かなくなった。いい大人二人が、もうどれくらい寝転がって天を仰いでいるのだろう。自転のリズムを眺めているはずなのに、永遠に時が止まっている気がする。  「これから話すから」  「これから?」  「そう、あなたが抱えてた荷物を下ろして欲しいから」  「……」  「あなたが荷物を預けてくれる時は、わたしもあなたに荷物を預ける。でないと、あなたは何も話してくれないでしょ?」  人が人に何かを捧げる事には、必ず何か理由が存在する。  人が人を慈しむ事には、必ず自己愛が存在する。  だから俺は、そんなものにはすがらない。  でも君の言葉は違う。自分の気持ちが自己愛なら、それを見せ合えばいい。 俺は俺のままでいい、君は君のままでいい。  君の全てを読まれている事が、眼前に広がる宇宙と同化したように心地良かった。  「俺も」  「ん?」  「いや、俺が、君を守ってやるよ」  『俺も君を守る』と言いかけて止めた。これでいいのだ、ぶつかり合えば良い。ぶつかり合って、何も隠さずに伝え合えば良いさ。  俺が、わたしが、そんな気持ちをぶつけ合って、壊れたら二人で考えれば良い。  「楽になろっか」  いい大人が二人して、寝転んだまま天を仰ぎ続けた夜。哀しみや苦しみの欠片が、少しだけ空へと還っていったような夜。  時が止まればいい。  そんな陳腐な台詞を今日だけは吐かせてくれ。定点に佇んでいた星が、一滴だけ夜空に流れた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加