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ミルクティー
目が合った時から、可愛くて仕方がなくていつも追いかけて、カッコつけては裏目に出てしまう自分が情けないと、彼は言う。
大きな身体でうずくまって、ふにゃあとため息を吐き出す姿に、物々しさなんか感じない。寄りかかれば、そこは虚しかないはずなのに温かくて柔らかくて優しい。
どうして私じゃないとダメだなんて、思ったんだ?
何度も訊いてくる質問に答える。
自分をちゃんと見てくれる相手が欲しかった、今まで誰もいなかったから。
あの時、方法はともかく、僕を見つけてくれた。
だから、僕はあなたじゃなきやダメだと。
嬉しそうに微笑む顔は、子供みたいに無邪気で。
本当に、あれこれいばり散らしていたようには思えない。
独占欲はお互い様なんですから、そんなに気にしないで下さいよ。多分、僕の方が怒りっぽいし、すぐむくれるし、面倒くさいですよ?
本当かなあ、とふわふわと頭を撫でる感触が嬉しい。
目が合うと言葉がなくなって、頬に、額に、キスが降ってくる。
もし生きていたら、いろんなところに連れて行って、いろんなものを一緒にみて、楽しんで、時間が持てるのに。
悔いても仕方ないですよ、僕はこれでもうじゅうぶん。
ホロホロ、はらはらと涙が溢れる。
泣くなって、と袖で涙を拭われる。笑って、ねえ、笑って見せて。
そうだ、ミルクティー作ってやろうか。英国仕込みだから、うまいぞ。
料理できるんですか?
カレーと紅茶いれるのと、スコーンは得意だ、意外かな?
ええ、とっても。
手伝いますから、と立ち上がる。
いいから仮眠するか、横たわっていてと制される。
ハグされて、そのたびに聞かされる大好きは僕だけのもの。
お願い、もう飽きないで。
囁けば、約束するという答えが返ってくる。
ベッドに横たわり、かぐわしい紅茶のかおりを吸い込む。そういえば、ミルクが先か、紅茶が先かで揉める国から来た人だった。
あなたに会えたことが、幸福に変わると思わなかった。
真夜中から夜明けまでの逢瀬は、短くて濃い。
深い触れ合いがないことと、壊したくないと拒む眼差しがつらそうで、見ていられない。消えてしまうのが怖いなんて、あなたらしくないのに。
もうすぐできるから、起きて。
ひんやりと、額をこすりあわせてくすぐったいとはしゃぐ。
会えないときは、夢で会えるようにおまじないをしよう。
同じことを考えていたから、もちろんとうなずく。
何年かぶりに飲んだミルクティーは、温かくて、優しかった。
ねえ、ところで紅茶とミルク、どっちを先にいれるんですか?
福山雅治 ミルクティーより
こんなに素敵な歌があったとは。
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