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そろそろ我慢の限界だ。
私は彼と別れる決意を固めた。
彼と付き合いはじめてかれこれ一年、同棲し始めて三ヶ月は経つ。これまで家族ぐるみの付き合いもかなりあったが、別れづらいなんて言ってる場合ではない。それに今ならすんなりと別れを告げられる。なんてったって私は怒っているのだ。非常に怒っている。
あのやろう!わたしの楽しみにしてたプリンを食べやがって!!
今日だ。絶対に今日別れてやる。
「ただいまー」
帰って来た。
小さく寒い寒いと言いながら、寝室へ上着をを掛けに行く姿がチラリと見える。
「おかえり秀壱くん。帰って早々悪いんだけど話が──」
「昭子の好きなプリン買ってきたよ」
「え?」
彼は頬っぺを桃色に染めて、嬉しそうに目を細めながら、手提げ袋をテーブルに置いた。ちょっとお高い御店の紙袋だ。
「やー、ごめんごめん。今朝仕事前に食べちゃってさー。お詫びに昭子の分は二つ買ってきたから、許して?」
「あ、うん。ありがと」
「いえいえ。ところで話って?」
「え、うん、まあ、食べてからでもいいよ」
そんな大した用事でもないし、と私は続けた。
蓋をゆっくりペリペリ剥がすと、中からふわっと甘い香りが広がった。数回スプーンで軽く叩いて、弾力を確かめてから、プルプルと震える端っこを少量すくいとってみる。断面がキラキラと輝いていた。
「どう?おいしい?」
「ん」
「それはよかった」
彼はプリンも食べずに、ニコニコしながら私を眺めていた。
毒気が抜かれてしまった。しかたない。別れるのは明日にしてやろう。
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