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「くそ! なんでだよ! お前だって仲間だろう!」
僕は宇宙船を蹴飛ばした。
ピロリンと間抜けな音がして、操縦版の前、僕の頭上に映像が映し出される。
「オーおじさん!」
通信がつながったのか。僕は映像に駆け寄る。
「待っててね、オーおじさん、僕助けに──」
「これを聞いていると言うことは、もう次の星に旅だった頃だろうなあ」
え……?
オーおじさんは虚空を見ながら、静かに話し始めた。
これ、通信じゃない。
「シャウ。シャウラ。お前さんは、本当に優しくて明るくて、オレはシャウがいたからとても楽しかったんだあ」
「どう言うこと? ねえ、オーおじさん!」
「最後に、拾い屋について、もう少し教えるべな。本当に、これがシャウに教える最後の話だ。よおく聞いてなあ」
オーおじさんの間の抜けた声が、静かに船内に響き渡る。
「はるか昔なあ。人間が宇宙に飛び立った頃、どうやって宇宙でエネルギーを確保するかが課題になったんだあ」
宇宙船が使うエネルギーは膨大で、広大な宇宙を全人類が縦横無尽に移動できるほどのエネルギーを使うと、5年で地球から調達できるエネルギーは枯渇する。
「それで考え出されたのが、星なんだべ」
星。宇宙のゴミ。
「宇宙のゴミを再生する技術を発明したんだべなあ」
宇宙のゴミをエネルギーに再生する。この技術により、人類の航海可能期間は、20年に伸びた。
「でも、まだたんねえなあってな。それに、宇宙ゴミも集めんといけねえし」
「それは前に聞いたよ! それが僕らの役目でしょう」
目の前のオーおじさんは、もちろん僕の言葉には何も返してくれない。
ゴミを拾うのが僕ら「拾い屋」の役目。
「そこでなあ、半永久的に宇宙ゴミを拾い、作り出す仕組みを考えたんだあ」
「え?」
初耳な話だ。宇宙のゴミを集めながら、次のエネルギーを開発する。そういう話だったはずだ。
「オレら拾い屋ロボットは、宇宙ゴミを拾う。そんで、流れ星になる。次の拾い屋は、先住民の拾い屋が星になったのを見届けたら、新しい場所でゴミを拾う。それを繰り返す。宇宙船はエネルギーで動く。そのエネルギーでロボットを充電できれば、ずうっと動かせる。そう言うロボットとシステムを人間は作ったんさあ」
「どういうこと?」
拾い屋が星になる?
四本の手で操作板をつかむ。
僕らは、重要な使命を与えられたロボットじゃないの?
「地球では、人が死んでからの後処理をするのを、骨を拾うっていうんだあ。それで、オレらはゴミや先住民が星になったあとの骨を拾う、拾い屋って呼ばれるようになったんべ。うまあく言いよるよなあ」
間の抜けたオーおじさんの言葉はいつもよく理解できるのに、今回ばかりは頭が理解を拒否しようとしている。そんな気持ちになる。
「シャウは、ほんとーにようできたロボットよなあ。人間の世界のこともよう知っとるし。新しい型のロボットはやあっぱ違うべなあ」
まるで人間のようなことを言う。
「感情入れるとよう働くって言ってなあ、オレは初めて感情を入れられたロボットだったんべえ。だから、自分とおんなじように話すロボットが来て、嬉しかったんさあ」
なあ、シャウ、知ってるかあ。
オーおじさんの平らな顔がピカピカと明滅する。面白いことを言う前の表情だ。
「シャウラって、スコーピオンの針の部分の星名なんだあ。オレはオーリーオンだべなあ。オーリーオンは、スコーピオンに刺されて死ぬんべよお。そんでいろいろあって二人とも空に上んべえ。ただ、オーリーオンはスコーピオンが怖くて、夜空でも逃げよるんだがなあ」
オレは、お前と二人でゴミを拾えて、楽しかったなあ。
オーおじさんが顔をピカピカさせながら笑う。
「シャウも、新しい拾い屋が来たら、いろいろ教えたってなあ。あだ名つけてやるといいでえ。仲良くなれっかんなあ」
オレのことはおじさんがいいなあ。親戚みたいやろう。オレは、シャウって呼ぶなあ。
初めて名前を教えてもらった時のことを思い出す。
じゃあ、オーおじさんですね。
そう言った時も、おじさんはピカピカと顔を光らせていた。
「いろんな見送り方があるんだけどお、オレは一人でいくなあ。星がいったら、オレかもしれねえって楽しめるでよお」
次の星でも楽しくやれよお。じゃあなあ。
プツリ、と映像が切れた。
「オーおじさん……」
オーおじさんが宙を見上げていた時も、誰かを、オーおじさんの先住民の拾い屋のことを、思い出していたのだろうか。
オーおじさんらしい。
最後まで、あっけらかんとしていて、明るくて、優しかった。
でもね。オーおじさんは知らなかっただろうね。
「僕はさ、悲しいって感情もあるんだ……」
宇宙船の窓に、僕の顔のライトが青く淡く光る様子が映る。
オーおじさんは泣かなかったかな。
ずっと笑ってくれていたらいいな。
ゴミを拾い続けて星を見上げるオーおじさんを思い出す。
こんな重要なこと、最後に話すなんてずるいよ。
もっと、ずっと、たくさん話したいことがあったのに。
もっと、ずっと、たくさん聞いてもらいたいことがあったのに。
もっと、ずっと、たくさんお礼を言いたかったのに。
夜の海に浮かぶ船隻のようなその青い光の横を、星が横切っていく。
あれが、オーおじさんかな。
僕は、いつまでも、その淡く光る尾を見つめていた。
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