宙の拾い屋

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 オーおじさんが見てきた惑星は、ここから2万光年先の星。  ゴミも豊富に残っているし、地面の温度の基準もクリアしている。たまに、高温すぎて支障をきたしたり、低音すぎて凍ってしまったりするので、星の地面の温度はとても重要だ。宇宙船を停めるための更地も確保できる星。  良い条件だ。 「これから1週間で、移動のエネルギーも含めてゴミを溜めるべよお」 「まかせて! 次の星も楽しみだねえ」  そおだなあ、とオーおじさんは(ソラ)を見上げていつもの間延びした声を出す。  最近は星の流れる頻度が多い。僕らにとっては、あの星の残骸が別の星に流れ着いて、ゴミとなるので大事なお星様でもある。 「ゴミなんて言ってられないくらいキレイなのにね」  星が宙を駆けるときには、灯台のように遠くまで光が伸びていく。その光は、海を駆ける白馬のようでもあり、海を舞う人魚のようでもある。  そんなことを言うと、オーおじさんは、シャウは詩人だなあと笑った。 「ほんとおに、シャウに教えることは、もうなんもねえなあ」  感慨深気にオーおじさんがため息を吐く。そして、もう一度宙を見上げた。  オーおじさんも流れ星が尾を引いて宇宙の壮大な海に走っていく姿が好きなのだろう。  いっときでも、この(ソラ)を見上げられなくなるのが寂しいのかもしれない。 「向こうでもきっと(ソラ)を流れる星が見えるよ」 「そうだねえ」  オーおじさんが宇宙服の中で笑った声がした。  僕らはゴミを集めに集めた。いつものノルマと宇宙船のエネルギー、それに合わせて星に移動するためのゴミ。向こうの星に着いてからも、すぐに仕事ができるかはわからないので、その分のゴミの確保をしたり、地球への移動の報告のための準備をしたりしないといけないらしい。  僕らはてんてこ舞いだった。 「間に合ったー!」  移動を決めた日から1週間。宇宙船は蓄えたゴミでいっぱいになっていた。 「乗れる、よね?」 「大丈夫だあ。オレはちょっと地球に報告すっべから、シャウは先に乗っててなあ」  地球への報告は、星にチューナーみたいなものを立てて行うらしい。僕はゴミをかき分けながら宇宙船に乗り込む。オーおじさんの場所も開けておかないといけない。  ゴミを避けてオーおじさんを待ちながら、僕はワクワクしていた。新しい星に行くのは初めてだ。僕がオーおじさんと会ったように、新しい出会いがあるかもしれない。 「楽しみだなあ」  ゴミに埋もれた操縦席で僕は宙を見上げながら、オーおじさんを待つ。ゴミの隙間から見た宙は夜の闇を切り取ったようでもあり、海を漂流する難破船に乗っているような気がした。  そんな寂しいような怖いような気持ちに膝を抱える。オーおじさんに会う前の僕もこうやって縮こまっていたような気がする。  ここに行けば、大切なクルーに会える。そう聞いて喜び勇んで宇宙船に乗ったけれど、本当はたどり着くまで怖くて仕方がなかった。  もし、星に誰もいなかったらどうしよう。仲良くなれなかったらどうしよう。全部、取り越し苦労だったけれど。 「オーおじさん、早く帰ってこないかな」  地球への報告が長引いているのだろうか。  僕は操縦席から離れようとして、目の端を掠めた光に振り返った。 「うわあ」  大量のゴミの隙間から、その闇の中を星々が流れていく。  まるで夜の流星群を切り取ったような、その隙間にしがみついて外をのぞく。 「すごい、すごい」  星が降っているみたいだ。  大量の星が空を駆け、明滅し、光り輝く尾を(ソラ)に色濃く残していく。  オーおじさんにも教えてあげなくちゃ。  僕は今度こそ操縦席から飛び降りた。地球への報告に夢中になっていて、こんな素敵な星の降る宙を見れなかったら、きっとすごく残念がる。  駆け出そうとしたときに、ゴゴゴと大きな振動とともに、積み上げたゴミが急に雪崩を起こした。 「おおっと」  転がったゴミを避けきれずにつまずく。 「ちょっと積み上げ方があまかったかな」  ゴミの山から這い出しながら、僕は言葉の軽さとは別に重く嫌な予感がしていた。  あの音は、宇宙船が発進する振動じゃなかったか?  起き上がった僕は、操縦席に張り付いた。 「え? うそ。なんで動いてるの?」  宇宙船がオートモードで動き始めている。  悪い予感的中だ。 「待って、まだオーおじさんがいるから」  急いで戻らないと、いくら余分に集めておいたとはいえ、エネルギーが足りなくなってしまう。 「戻って、戻って。Uターンだよ」  ピポパと宇宙船に指示を出す。  ゴゴゴと言う音はすでに止んでいて、宇宙船は安定飛行になっていた。 「あれ、戻るんだってば」  それは、Uターンするには程遠い安定飛行で。 「ちょっと、言うこと聞いてよ。前の星に戻るの。オーおじさんが残ってるよ」  ゴミがひっくり返ることもなければ、宇宙船が逆噴射することもない。 「ちょっと、ちょっと!」  待って、待って、待って!  むちゃくちゃに操作をしてみても宇宙船は、うんともすんとも言ってくれない。凪いだ海をいくような安定した動き。おかしい。なんで。  なんで、なんで、なんで。  操作板を叩きまくり、ゴミをひっくり返し、宇宙船のドアに体当たりする。  僕は頭が真っ白になった。  宇宙船が勝手に動いてる。  いくら次の星に行けたとしても、オーおじさんを迎えに行けるまでには1週間はかかるだろう。その間、宇宙船なしで過ごし続けられるはずがない。
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