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その時間になれば
予定どおりの何かが起こるのだが
それが始まりであることは
少ないかもしれない
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温かい夜のことです。
飾り気のない、ただ黒いだけのカメラでした。そのカメラを彼は大きな岩の上にしっかりと乗せて、タイマーをセットしました。
彼女と彼は、ずっと前からの友達でした。
でも、このごろ彼女はだんだんみんなから大切にされるようになって、あまり彼と会うことはなくなりました。だんだん、綺麗になってきたからです。
そして、このごろ彼はみんなからウソツキと呼ばれるようになりました。別にウソをついているわけではないのですが、彼の中の「言葉」と「気持ち」の仲が悪いのでしょうか、口を出る声は夢のようなことばかりを相手に伝えてしまうのです。
「ちゃんと撮れたことあるの?」
彼は、コクと頷きました。実は、寒いとシャッターが閉じなかったり、自分がドキドキするとカメラもドキドキしてブレてしまったりと、彼が思うとおりにちゃんと撮れた写真は1枚もありませんでした。しかし、カメラをくれた人が試しに撮ってくれた写真は、街に星の降り注ぐとても美しいものだったのです。
「はやくしてよね」
彼は、うん、と頷きました。そして位置を確かめると、一目散に彼女のとなりに走り込み、座りました。
そして言いました。
「僕たちの上に星を降らせるからシャッターが閉じるまで、じっとしていて」
月見草に囲まれた彼女と彼の後ろには、小さな街のきらめきと雄大な山々が見えるのですが、カメラの中の景色には彼女と彼しか入っていません。
鳴く虫の羽音のようなタイマーの音は、まだ止まりません。
「ウソツキ……」
そう言うと彼女は、彼の肩の上にちょこんとこめかみを乗せました。
彼はブレないように息を止めています。
シャッターは、まだ、開きもしません。
(おしまい)
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