神社の娘

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箒とちりとりを手に、赤い鳥居の前に立つ。 「あたしはこの神社を絶対、一大テーマパーク的な神社にしてやる。神様ずきの金持ちからお金を回収して、絶対、もっとBIGな、観光名所的な、みんなじゃんじゃんお参りに来て、お金をおとすような神社にしてやる!」 私、遊佐亜紀はこの4月から高校3年になる。今は春休みだから、部活の後輩の可愛いどころ、イケメンどころを動員して、うちの神社の販売促進活動につとめさせている。 巫女の衣装をまとった後輩の女子4名と、白袴の男子2名の前で私は音頭をとった。 「では、今日もバンバン御守りを売り上げて、おみくじを引いてもらってください。さぁ、今日も一日、頑張るぞ!」 「おーっ」 後輩の女子はなかなかノリノリでやってくれるので、成績もよいのだが、男子はいまいち、盛り上がりにかける。 私が、買わせるためのテクニックを伝授している今も、二人でコソコソと何やら愚痴を言い合っているみたいだし。 「真先輩、亜紀先輩、すごいですね。神社の娘っていうより、何て言ったらいいのか・・」 「商魂たくましいからなぁ。露店のおねーさん的っていうのかな」 「そう、それ! 昨日も目を合わせる。ニコっと微笑む。いかかでしょうか、と優しい口調で勧める、ができてないって何度も指導をうけました~」 「あ~。俺なんか、御朱印もっと早く、ササっと書け。待たせるな! だもんな~。大体、俺が書いていいのかっていうモラル的なところがさ・・」 「まぁ、真先輩ほどうまく書けるんだったら、いいんじゃないですか? ああ、この度は県代表おめでとうございます」 「いえいえ、ありがとう」  誰よりも達筆なので、御朱印の仕事を任せている高村真(まこと)だけが同学年で、他の売り子は、みんな私の高校、書道部の後輩だ。  真の字は綺麗だ。力強さと優美さが、ギリギリのところで、折り合っている感じ。どちらにも偏ってない。県の代表として出展されるほどの腕前だ。小学生の頃から、ずっと書をやってるってのも、もちろんあるし。本人が字を書くことに対して、すごく熱意をもってるってのもある。なので、以前から、私は彼の持つこの才能をちょこっとだけ利用させてもらっている。 「まことーっ! ちゃんと、用意してきたんでしょうね!」 「ああ、大丈夫、今日は待たせない」 真の書で問題があるとすれば、遅筆なところ。書き出す前の、御朱印帳とのにらめっこの時間が長すぎて、大量生産にむいてない。 「いい? 待たせても10分だよ、それ以上はダメ。それ以上かかるとわかると、次の注文に差し障りがあるんだからね!」 「わかってる。ちゃんと準備もしてきたから、そんなキンキン声だすな!」 真と私は同学年の幼馴染だ。 そして、もっと深い関係が私たちにはある。 10年前、母が「父より娘よりも好きな人がいる」と言ってのけたのが、彼の父親だ。私の母を奪ったのが真のお父さん。 いや、もしかしたら、そこは逆かもしれない。あたしの性格と、お願いしたら断れない真のことを考えると、ぐいぐいと行ったのは母の方ではなかろうか。  真の父親の家はうちの神社の有力な氏子さんであり、昔から深い付き合いがあったわけだが、これにより流石に氏子を外れて、家同士の関係は終了した。 真の母親は実家に戻って(2キロ範囲内のご近所でした)、2年後には再婚、真には妹が生まれる。(まだ小学生だが、なかなか可愛いので、いつか巫女のバイトにスカウトする予定だ。) 一方、あたしの父親はそのまま、再婚等には、何の縁もなさそうで、宮司の仕事を一生懸命に、忙しくやっている。 10年前、私も真もまだ2年生だったから、あんまり覚えてはないのだけれど、この男女の話題でご近所はもちきりだったらしい。 確かに笑える。 そして、妻が出ていった宮司が勤める神社に、「家内安全」だとか、平気で祈祷をお願いしに来てくれる人がいるのはありがたいけど、笑ってしまう。 うちの御守りで、「家内安全」を堂々と販売しているのも、滑稽だよね。 まぁ、いいのだ。神様なんて存在しない。 あたしは、この神社を使って、お金を稼ぐだけ。 神社のテーマパークを作り上げてやる。 太宰府天満宮に負けないぐらいにでっかくしてやる。 絶対に、あたしはBIGになるんだ。 そのためには何だってやるの。神様なんて大安売りしてやるよ。減るもんじゃないでしょ。どうせ、どいつもこいつも自分で努力するのが嫌だから、神様お願い! なんて、言ってるわけでしょ?  「けっ」って感じ。 自分でいろいろ考えて、行動した奴が、頑張った奴が勝つんだよ。ただ祈っただけで、何かを手に入れられるわけがない。 さぁ、今日も一日、頑張って、お金をおとしてもらおう!
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