神社の娘

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「つっかれたぁ!」 「終わったぁ」 あたしと、真は袴姿で、祈祷などを行う床張りの部屋に倒れこんだ。 一日中、境内の中をあっちへ、こっちへ、監督者として、あたしは動いていたから足がくたくた。 「足いたーい。おなか減ったー。でも、お客さん、いっぱい来てくれてよかったー」 「今日は頑張りましたー」 二人で、床の間の大の字になって、天井を見上げている。 コレ、あたしたち、小学生の頃から、ずっとやってる。 床が冷たくて気持ちいいのだ。 「ねー。『おみくじ』ってどうにかならないかなー」 「え~? どこも、2.300円だって。それ以上、高いとなかなかやらねーよ」 「いや。価格じゃなくてさ」 あたしは、毎週月曜日におみくじの後始末が面倒くさいのだ。おみくじ売り場付近にある木々にみんなくくりつけていくからね。 あれを外すのだけで一苦労。 「何か、他に回収のいい方法ない?」 「う~ん・・ゴミ扱いできないから、結びはじめたんだろーけど」 「ったく、みんな持って帰れっつの」 「でも、あの結ぶって行為が、いいんじゃないの? アッキーがいつも言ってるちょっとだけ体験してもらう形じゃないの?」 「ん・・う~ん」 うちの神社にくる人の多くは、普段は神仏に全く関心がない人がほとんどだ。 なので、お決まりのルールもあまり知らない。 あたしとしてはお金を落としてくれさえすれば、別に細かいことなどどうでもよいのだけれど、参拝の仕方を教わって、それを真似るだけでも、参拝客の満足度が違うらしいのだ。 ちょっとした体験型がうけるらしいの。 それならうちもということで、リピーター確保のために土日、祭日、ちょっと賑やかな日には、スタッフを配置して、手水やニ拝二拍手一拝などの基本的な所作を一緒にどーぞって感じで、やってみせたりしている。 「お任せで手頃な枝に結んでもらうのは止めてさ、こっちで紐とか用意して、そこに結んでもらえばいいじゃん。で、紐を外してそのままポイ捨て。どーよ」 「うん、うん、うん、そこに結びたくなるよーな紐にできたら、すごくいいかも」 「ふふん、どーよ?」 仰向けになりながら、真があたしの顔の前に手を出してきた。 「なんじゃ、この手は?」 「この手はアイデア料をくれの手」 あたしは、その手を軽くつねった。 「紐を張る場所の選定、実際にやってみて。あと、どんな紐にするか。結びたくなるようなの、ね。これで木の枝に結ぶのがゼロになったら、学食おごるわ」 「そんだけかよ!」 「えー? じゃあ、暇な時にデートもしてやる」 「いや・・結構」 「なにそれ! もしかしてデートする相手、他にいるってこと?」 「いや、いませんけど、結構です」 「なによ、それー」 真とは、ずっとこんな感じだ。 互いの親がシングルになった時も、真に新しい母親ができた時も、妹が生まれた時も、こんな感じだ。 一度だけ、たぶん、両親が離婚して半年ぐらい、小学3年生になった頃かな。 友達みんなで遊んでいて、そのまま境内の方へ、ワーっと流れ込んでいった時、真は一人、赤い鳥居の前で足を止めた。 友達みんなの先頭をきって走っていたあたしは、振り返ってうしろをみる。 「どーしたの?」 真はうつむいて、申し訳なさそうに呟いた。 「オレ、入っていいのかな?」 「は?」 あたしは、すぐに後ろに回り込むと、ドンっと力いっぱい真のまるまった背中を押した。 「わあっ」 真は体勢を崩して、石畳に手をつく。 「いてーな、おまえ・・」 顔を上げる真の前に、あたしは仁王像のようにふんぞりかえって言い放ったんだ。 「あたしたちには関係ないから」 これが、あたしのこれまで生きてきた中で一番の名言。 「あたし、真のうちにも遊びに行くから」 「うん」 「あたし、真とずっと友達だから」 「うん」 「あたし、誰にも負けないから」 「・・・・・・うん」 あたしたちは、手に手を取って、みんなを追いかけていった。 そんな美しい思い出が二人にはあるのだ。 友達と言うより、あたしたちは仲間なんだ。
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