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「ねぇ、お母さんに会ったことあるんだよねー」
「・・・ある」
真は内緒にしていたことを申し訳なそうに、目をそらして、うなづいた。
「元気そう、かな?」
「・・・・・」
母のこと、何にも知らない。あの日以来、うちでは母の話は一切タブーだ。
でも、だからこそ、あたしの中にはお母さんが溢れてる。
「ん? どこか具合わるかったりするのかな?」
「さぁ・・」
「さぁって、何よ、それ」
ここまで、あたしに期待させといて、ドキドキさせといて、黙り込むって、ひどくない。
「おまえさぁ、会いに行けよ」
「え?」
あ・・・。ヤバい。あたしが一番、実は望んでること知っていやがる。
「この春休み中に福岡に行ってきな。俺が全部、連絡つけるから」
「ほ、本当?」
ずっと会いたかったんだ、あたし。本当は神様に何度も何度も、お願いしてた。
「アッキーさぁ、自分で会って、いろいろ確かめた方がいいよ」
神様、お母さんに会いたいって。あたし、ずっと、何度もお願いしてた。
うちの神様だけじゃなく、イエス様にだって、お願いしたんだ。
「お前の前でコレ言うのもなんだけどさ、俺は二人、幸せそうに見えるよ。親父とお前のお母さん、すごく素敵にみえるよ」
「・・・そうなんだ」
「ついでに言うとさ、俺んち、今の父親と母さんもいい感じなんだよ。父さん、すごく優しいんだよ、妹もかわいいし。俺、お前は怒ると思って、何も言えなかったけど、これで良かったんじゃないかって思ってる」
え…? みんな幸せなんだ。いやいや、幸せなのはいいことだよね。
そりゃあ、いいことなんだけどさ。
あれ?
何かちょっと涙が出てくるんだけど。
あれ? 何でだろう? どうしたんだろう?
「お前だけが辛そうなんだよ。お前だけ、悩んでるように見えるんだよ。だから、言えなかったけどさ」
真は、隣で仰向けになってグスグス、声にならない嗚咽をもらす、あたしの手を引き寄せて、強く握った。
あたしは、その手をヒステリック気味に振りほどく。
「やめろ、あほ!」
「ごめん・・」
この涙はお母さんに会えて嬉しいって涙だよ。あたしだけ、辛い思いしてきたのにって、誰かを責めるくやし涙のわけがない。
あたしは、そんな嫌な奴なんかじゃないよ。
あたしはさ・・・。あたしは、お母さんに話したいことが、聞きたいことがいっぱいあるんだ。
「二泊三日ぐらいかな・・。三泊でもいい」
「ん・・・?」
「話したい事、いっぱいあるから。一日じゃ足りないと思う」
「わかった」
「予約しといて」
「ん・・・・?」
「真も一緒に行って」
「え? マジで? ・・・まぁ、いいけどさ」
「ホテルの予約も」
「え? あ、あの、あのさ・・」
「あほ。いくら真でも、そこまで信用せんから。ビジネスホテルのシングル、2つ取りなさいよ」
「はは、OKです」
「高速バスの予約もね、往復で」
「はいはい、了解。お嬢様、他には?」
「他には・・・」
「ねぇ、お母さんに会うのにさ、あたし、どんな服着て会えばいい?」
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