ホシ降る夜

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 悲鳴の聞こえた方へ走ると、街灯の下に影が見えた。  一人は地面に横たわるようにし、もう一人がその傍に立っている。 「おいっ、何をしている!!」  先輩の怒声。  立っていた方の人影がパッと振り向いた。 「う……牛?」  そいつはゴム製の牛のマスクをかぶっていた。  警官の姿だと分かるや否や、牛は僕達に背を向けて走り出す。 「まてっ!!」  先輩が走り出した。  僕は倒れていた方の影に近寄る。  それは女性だった。スーツ姿であるところを見ると、仕事帰りだろうか。  とりあえず救急車を要請し、僕は女性に尋ねた。 「大丈夫ですか? けがは?」 「あ、ありません……」 「何か盗られたものは?」 「ありません」 「……一体、何があったんです?」  僕が尋ねると、女性はじわっと目に涙を浮かべて「怖かったぁ……」と僕に縋りついてきた。  いやまあ僕も男なので、もちろんうれしくないわけはない。  けど、今は事件の方だ。 「一体何があったのか話せますか?」 「う、牛のお面被った人が……いきなり飛び出してきて……。なんか、織姫ちゃん僕と一晩天の川のほとりで語りあおうって……」 「……織姫?」 「いえ、私の名前は山中良子です」 「ではなぜ織姫と?」 「わ、分かりません……。私はタダのOLです。彼氏もいません。あんな牛、全く知らないんです。天の川のほとりで語り合う事なんて一つもありません!!」  彼氏は聞いていないけれど。  気が動転しているのかな? 「ま、まあ落ち着いて。人違いかもしれませんから」 「ひ、人違いでこんな怖い目にあわされたんですか? 許せないです。絶対に捕まえてください!!」  だんだん怒りが前に来たらしく、山中さんは語気を荒げた。 「ご心配なく。我々が必ず捕まえます」  その時、救急車がやって来た。  僕はほうっと一息ついた。 「念の為ですけれど、検査を受けてください」  僕はそう言って、救急隊員にバトンタッチした。搬入される病院を聞いて無線で報告を上げると、代わりに先輩が市民公園の方へ追いかけている事を伝えられた。   僕は慌ててそっちへ向かった。
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