ホシ降る夜

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 白い水銀灯の光に照らされただけの薄暗い市民公園。  結構な広さがあり、広場や遊具、ちょっとした雑木林の散策路、スポーツ関係の施設もある。  そこの雑木林付近で先輩を見つけた。 「先輩」 「ああ、お前か。被害者は?」 「念のため病院です。牛男は?」 「分からん。見失った。一応応援は手配してあるけどな。今からこの雑木林の中を調べるんだ。お前も手伝ってくれ」 「はい、わかりました」  僕は懐中電灯を構え、慎重に雑木林の中へと足を踏み入れた。  周囲を照らしてみても、木が邪魔であまり遠くまで見えないような気がした。 「木が邪魔ですね」 「だからこそ、ここに逃げた気がする」 「なるほど」  二人で十分ぐらいだろうか、それほど広くもない雑木林の中を丹念に調べた。  だが、牛男は見当たらない。 「あの牛のマスクなら、さっさと見つかりそうなものなのに」 「もう外してるのかもしれん。それで一般人に紛れて平然と」 「だとしたら手詰まりですね……」 「クソッ!!」  先輩が近くにあった木を思いきり蹴飛ばした。  それほど太くもない木が大きく揺れる。 「う、うわぁ!!」  どさっと、音がして、何か大きなものが落ちてきた。  懐中電灯を向けると、そこには牛頭の男が腰を押さえて蹲っていた。  どうやら木に登ってやり過ごすつもりだったらしい。 「こいつ、牛じゃなくてクワガタだな」  どうやら相当痛めたらしく、動けない牛男を見下ろして先輩が苦笑いをしている。  僕も間抜けな姿に呆れるしかなかった。 「それにしてもさすがは七夕だな。ホシが降ってきやがった」 「あ、短冊」 「ん?」 「ホシが欲しい、無事叶いました。そのおかげで降ってきたのかも」 「ほんとだな。あんな間抜けなお願いが叶ってしまうとは。織姫と彦星も相当ラブラブやっててこっちのお願いなんてまともに聞いてないな」  先輩は呆れたようにそう言って、牛男に手錠をかけたのだった。  
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