星降る夜に

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 西の空に日が沈み、その残滓も消え去って、この街に再び夜が来た。  砲兵たちが対空砲へ走る。  彼らは夜の間交代でこの対空砲の射手を務めることになる。  狙うのは空から降り注ぐ流れ星。  そのほとんどは大気圏上層で燃え尽きるのだが、そのうちのいくつかはそのままでは地表面まで到達し、大きな被害をもたらす。  上空を監視するレーダーが捉えた小惑星の危険度をコンピュータが計算しているが、落着までの時間は極めて短いので計算結果を待つよりも射手の感に頼って怪しいものを撃つほうがしばしば早い。  そのため射手たちは互いに協力し合いながらもより多くを撃破することを目指して競い合っていた。  流星の正体はこの惑星の公転軌道の外側、つまり恒星と惑星の夜の側の重力平衡点に溜まった膨大な量の小惑星だ。  それらはかつてこの惑星に寄り添っていた衛星の成れの果て、砕け散った姿だと言われている。  それらが毎日頻繁に軌道を外れて地表に落下する。  落下する数は日によってまちまちだが20を下回ることはほとんどない。  ここ最近の観測班は慌ただしく計算を繰り返していた。  夜の側の重力平衡点にある最大の小惑星、M1の軌道の偏心度合いが大きくなっているのだ。  M1は最長部分が5kmを超える巨大な小惑星だ。  もしM1が軌道を外れてこの惑星の地表に落下するとなれば逃げ場はない。  そこで各地の都市は連携した対空砲のネットワークで共同迎撃を行う計画を立てていた。  だが対空砲でM1を細かく砕くことができても、その破片のうちいくつかは地表に到達し大きな被害をもたらすのは確実だった。  M1の砕き方を調整して、破片の落ちる位置をある程度コントロールできる可能性が示唆されると、各都市の政治家たちはそれをどこに落とすのかで喧々囂々(かんかんごうごう)の議論をはじめた。  これはつまり都市の受ける被害の押し付け合いだった。  破片が落着する以上、たとえそれがどこであっても被害を免れる都市はない。  であるなら自分たちの都市は可能な限り被害を抑えるべく、なるべく遠くへ落とすよう交渉することになる。  だが自分の都市の遠くはどこか別の都市の近くになる。  海に落とすにしても今度は破片の起こす津波が沿岸部の都市を襲うことになる。  どこへ落とそうとも、どこかが大きな被害を被り、全都市が連携しなければならないため、すべての都市が納得できる落下地点を模索しなければならない。  この計画は各都市の対空砲が連携して精密な射撃を行わなければ水泡に帰するのだ。  人々はそんなことなどつゆ知らず、夜空に降り注ぐ流星のショーを楽しんでいる。  対空砲が砲弾を超高速に加速して打ち上げ、軌道を外れた小惑星を砕くたびに、無数の流れ星が夜空を彩るたびに、空を見上げて歓声を上げる人々。  未だ世界は平和だった。
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