2.

1/6
前へ
/15ページ
次へ

2.

 生まれてこの方、星を見たことがない。  そういうと大抵の人は声を揺らす。  それは僕が、何の脈絡もなく唐突にそんな話題を口にしたから――では、もちろんない。それなりに空気は読める方だと思う。そうなれるように努力をしてきた。だってそうじゃないと生きていけないから。   何をしたい?  星を見たい。  そういうやりとりがあった上で、だ。  見られたってどうってことない、とか、天気が悪ければみんな見られないようなものだからね、とか。  なぐさめなのかごまかしなのか、慌ててそう言ってくれる声に何だか申し訳なくなりながらも、そういうことじゃないんだな、と僕は思っている。  天体観測(という行事が、人工の光に覆われていた昔には存在したらしい)の日に雨が降ってしまったとか、流星群の夜に雲があふれていたとか、そんな思い出すらも僕にはない。  僕は星に触れたことがないのだ。  太陽も月も見られるのに、どうして星だけ姿が掴めないのか。  それだけで周りを違うことを知らしめられて、それだけでも分かれば周りと同じと思えるような気がした。だからこそのしたいこと(・・・・・)なのであって、でもやっぱり叶わない願いなんだと、半ば悟りのような思考も片手に抱えている。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加