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「もうすぐ戻ります」 「分かった。おやすみ」  夏希さんはそういって戻って行った。家のドアが閉まる音がして、僕は空に向き直る。  人の音が聞こえなくなって、紛れていた音と匂いが騒めき出す。  風。草。虫。  僕は深く息を吸って、ゆっくりとはき出した。繰り返すと僕の内側の範囲が広がって、だんだん外との境目がなくなって、世界に溶け込めたような気分になれる。  このまま本当に溶け出して一緒になれたら、僕は星を感じることもできるだろか。  それは想像すると楽しそうではある。でもそうしたら僕は僕が星を見つけられないように、誰にも見つけてもらえなくなってしまうのかもしれない。それは寂しい。  うぬぼれみたいだけど、僕の形が分からなくなったら、たぶん夏希さんと慎さんは悲しんでくれるだろう。  そしてもしかしたら、あと一人も、たぶん。それは嬉しいけど嫌なことだ。だからやっぱり溶け出すことはできないな。  想像に妄想を重ねていると、左側の方から、ぎゅ、と草を踏む音がした。そちらを向いたと同時に、はっと息をのむ音がする。  静かに風が流れて、知った匂いが届いた。 「――(こう)くん」 「悪い、邪魔した」  少しかすれた低い音。仏頂面が浮かびそうな淡々とした声はよく知っていた。
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