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「何か見えるかい?」
「お星さまが見える」
ぼくが答えると、ドラゴンは愉快そうに笑った。群青色の鱗で覆われた体を小さく震わせ、金色の目を細める。
「そりゃあそうだろうなあ、夜だもの」
「お月さまも見えるの」
「そりゃあそうだろうなあ、夜だもの」
吹き抜ける風が、背高のっぽの草をわさわさと揺らしていた。うんと背伸びをしていないと、わさわさの草はぼくのことを隠してしまう。つま先で立って、両手を上に伸ばす。
この高原には不思議な言い伝えがあるんだって。
夜、空から星が降ってくることがあるらしい。それを捕まえることができたら、とてもいいことが起こるという。例えば、学校の成績がよくなったり、好きな人と結ばれたり、仕事が上手くいったり。
「人の子、おまえは物好きだね。昔は降る星を拾いにたくさん人の子がここへやって来た。けれど、今となってはどうだい。おまえしかいない」
「今はお星さまが降ってくるのはごくごく稀なんだって、おじいちゃんが言っていたよ。だから、みんな待っているのが嫌になっちゃったって」
ドラゴンは喉の奥でくつくつという音を漏らすように笑った。
「夢がないなあ。つまらないなあ。愚かだなあ」
「お星さまは本当に降ってくるの?」
ぼくが彼のことを見上げると、大きな金色の目がじっとぼくのことを見下ろしていた。どう思う? と訊ねているように見えた。
ぼくはお星さまを待っている。毎日、毎日、ここへ来て空を見上げて。今日で何日目になるんだったっけ?
夜空に瞬く無数の星々は、空という天井に貼り付いたままでびくともしない。
「見たことあるよ、星が降って来たの。そりゃあ綺麗でな、夢のような景色だったよ」
「あぁ、早く降ってこないかなあ」
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