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☆Ⅱ☆
今日もまた、ぼくは夜空に手を伸ばす。
「どうだい、人の子。今日は降ると思うかい?」
「分かんないけど、待つの」
ドラゴンはぼくに顔を近付けてきた。ごつごつした大きな顔がぼくのすぐ隣に迫る。
「おまえは何を望んでいるんだい。そんなにも必死になって」
「ぼくね、おばあちゃんにお星さまを届けたいんだ」
「おや、おまえ自身の願いがあるのではないのかい」
ぼくは頷く。
ぼく自身の望みがあるのなら、それはきっと「おばあちゃんが元気になりますように」というものだ。ぼくは、おばあちゃんにきらきらのお星さまを見せてあげたい。
昔、おじいちゃんがお星さまを拾ったんだって。そうしたら、おばあちゃんと大好きで仲良しになれたって。おじいちゃんが持っていたお星さまは戦争の時になくしてしまったから、今はもうないの。新しいお星さまをプレゼントしたら、おばあちゃんは元気になってくれるんじゃないかなって、そう思うんだ。
ぼくの話を興味深そうに聞いていたドラゴンは、長い首を持ち上げて空を見上げた。
「やあ、人の子よ。星が降るぞ」
「えっ……」
ドラゴンの視線の先、遠くの方で何かが煌めいた。
「降る星は人の子の願いであり、思いであり、命なのだよ。今はすっかり平和になったから、戦争に明け暮れていた頃と比べると随分と降る星が減ったものだ」
「難しいお話?」
ドラゴンは鋭い爪を並べた手でぼくのことを掴んだ。傷付けないように、優しく手の平に載せて空へ掲げる。
「人の子はその命が消える時、次の人の子を助ける星になるのさ。ほら来た、落とすんじゃあないぞ」
空の向こうから、光が降って来た。ぼくとドラゴンのいる高原目掛けて、一直線にそれは落ちてくる。
星だ! 星が降って来た!
ぼくは夜空に手を伸ばす。お星さまはきらきら光りながら、ぼくの胸に飛び込んできた。取り落とさないように、しっかりと抱える。大きな果物くらいの光の塊が、ぼくの腕の中で揺れている。
お星さまは本当に降ってくるんだ。
「その星に思いを伝えるといい。おまえにいいことが起こるといいな」
「これはおばあちゃんにあげるんだよ?」
ドラゴンはぼくのことを地面に下ろす。背高のっぽの草に埋もれながら見上げるぼくを見下ろして、彼はちょっぴり寂しそうな、悲しそうな顔をした。
「そうか。そりゃあそうだな。おばあさんに見せてあげるといい」
「うん!」
「……ありがとうと、おばあさんにしっかりお礼をするんだぞ」
「よく分かんないけど、分かった!」
ドラゴンに手を振って、お星さまを抱えてぼくは高原を後にする。早く帰って、おばあちゃんに見せてあげるんだ! きらきらのお星さま!
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