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バスを使って、ほしみ村に着いた頃には空に星が瞬いていた。
ほしみ村は山奥の村ということもあり、夜空がよく見える村でもある。
そのことから、ほしみ村という名前になったのだろう、と私は思う。
……そう言えば、祖母から村の名前の由来は聞いたこと、なかったな。
そして昔から変わらず、バスの本数が少ない上に到着時間が遅い。
……むしろ、ほしみ村に続く路線がなくなっていなかっただけ良いことなのかもしれない。
最近の私は、社会人になって両親と距離を取っていた。
両親と距離を取ったのだから、祖母の村に行く頻度を増やす――ことが出来たら理想だったのだが、社会人というのは何かと忙しい。
中々ほしみ村に足を伸ばす機会が得られず、時々手紙を送ったり、食糧を送ったりするくらいしか出来ていなかったのだ。
ほしみ村の外れに1軒だけ建っている小さな家が、祖母の家である。
祖母曰く、昔はもう少し周りに家があったが、流行り病によって村人が激減した時期があり、その頃家ごと村人を焼いたりしたことがあったそうだ。
その名残で、村の中の家の配置がまばらなのだという。
祖母と関わるようになって、私は祖母からそんな話も聞かせてもらったのだ。
早足で私は祖母の家に向かう。
村の様子を伺えば、縁側に座っている村人達の姿を見ることができた。
村人達は、今日降る“ほし”を得ようとしているのだろうか?
「お久しぶりです、最近中々来ることが出来なくてごめんなさい」
「謝らなくて良いんだよ。今日はゆっくりしていきなさい」
祖母の家の前に着けば、祖母が玄関の前で立っていた。
祖母は謝る私にそう言い、すぐに私を家の中に招き入れてくれる。
そして、がちゃり、と玄関の鍵を閉めた。
「おばあちゃん…?」
私は、はじめて祖母が玄関の鍵を閉めたところを見た、と思う。
だって、何時もだったら鍵を閉めずにそのままにして、時々玄関に村人が尋ねてくるってことがあったくらいだから。
祖母は私の呼びかけに答えることなく、私の手を引く。
私は抵抗することなく、祖母に手を引かれれば、居間――大きな窓から外の様子が見える部屋――まで連れて行かれた。
「今日は、“ほし”が降る日。
――――本当の言い伝えを、伝えようと思う」
そう言う祖母の声は、震えていた。
その震えは、年による声の震え、に聞こえなくて。伝える為に勇気が必要な、覚悟を決めて喋りだすような、そんな震えた声だった。
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