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「お兄ちゃん、ご飯食べさせてくれてありがと。今度はお寿司連れてってね!」
「・・・ああ」
「お仕事決まってほんとによかったね、のえる。私たちがお祝いしなきゃなのに。今度は家で食べようね? お母さん、料理上手になったんだから」
「・・・うん」
「あんたには何にもしてあげられなかったから・・・これからは母親らしい事、少しはさせてね」
別れ際、肩を撫でる母の手は思ったより温かくて、記憶の中のそれより小さかった。
何度も振り返って手を振る弟の無邪気さに、何故だか涙が出そうになった。
遠ざかる母と弟を見ていられなくなって、俺はふたりに背を向け歩き出す。
本当は大好きなんだ。母のことも、弟のことも。
大切だからこそ、もう会わない方がいい・・・
「きゃあぁぁっ!」
「うわぁ! 逃げろっ、早く!」
突然背後で騒ぎ出す通行人たち。振り返れば、俺を追い越し逃げるように走り去る人もいる。
なんだ・・・?
ドンッ
と体に衝撃が走り、ぶつかって来た女性が青い顔で叫ぶ。
「助けて! 警察っ、早く警察・・・っ」
女性を受け止めた腕に、ぬるりとした感触が纒わり付く。
え・・・、血・・・?
「子供・・・っ刺されてた、早く助けてあげて!」
血だらけの震えた手でバッグからスマホを取り出しスクリーンを何度もタップしている。
警察・・・、血・・・、子供・・・
嫌な予感がした。全身を悪寒が襲う。
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