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母は頭部と心臓を含む全身を複数箇所刺され外傷性ショックで即死状態。
弟が刺された場所は急所を外れていたが、病院へ搬送されて間もなく息を引き取った。
すぐに犯人は捕まり、詳しい事情聴取はこれからだがおそらく通り魔的な無差別殺人だろう、と警察から聞かされた。その場にいた11人が被害に遭い、うち死亡者は母と弟の2人だった。
俺が食事に誘わなければ、そもそも就職が決まらなければ、二人は死ぬこともなかった。
いや違う。
俺が、愛しいと思わなければ・・・
涙も出ない。泣くことすら許されない気がした。
治療を受ける被害者たちの家族で騒然とする病院のフロアを抜け中庭へと出る。
ベンチに座って天を仰ぐと静かに月がそこにあって、まるで「いつもと変わらない」と言っているようだ。
何も考えたくないのに、目を閉じれば脳裏に焼き付いた母と弟の無惨な姿。開ければ残酷なまでの静けさが虚しく広がる。
いっそ自分も弟たちと同じ所へ行こうか
なんてそんな勇気も無いくせに。
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