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注文書をゴブさんに渡しながら、僕はこれからの流れを頭に描いた。
ゴブさんが僕の注文を取りに来たということは、天使さんがちょんまげに料理を運ぶ可能性が高い。
イレギュラーでゴジラが出現するかもしれないが、それは望みが薄いだろう。
この流れを断つためには、どうしたらいいだろうか。
そうだ。天使さんがちょんまげに料理を出して戻るタイミングでベルを押せば、上手くすれば僕の所に来てくれるかも知れない。
僕の予想通り、天使さんがちょんまげに料理を運んできた。
あとはタイミングを測って……。なにぃ!
不測の事態が起きた。
ちょんまげが、追加の注文書を天使さんに渡したのだ。
呼び出しベルを押さずに、追加注文をするとは。なんという高等技術を使うのだ。ヤツは完全にこちらの手を読んでいる。あのちょんまげは伊達じゃないということか!
ちょんまげは僕の方をチラリと見ると、両手を合わせて、小声で「いただきます」と言うと、辛みチキンに手を伸ばした。
ちょんまげが注文した品は、辛みチキンと、エスカルゴのオーブン焼き。そしてイカ墨パスタだった。
一度の注文で、陸海空を征するとは、なんてヤツだ!やはりあなどれん。
僕がちょんまげを観察していると、ゴブさんが料理を運んで来てくれた。
僕が頼んだのはミラノ風ドリアのランチセットとシナモンフォカッチャだ。
このレストランは安くて美味しいのが売りだ。特にミラノ風ドリアはいつ食べても美味しいくいただける。
もし、これを天使さんが運んで来てくれたなら、神の祝福に満ちた最高のミラノ風ドリアになっていたことだろう。
猫舌の僕は、ミラノ風ドリアが冷めるのを待つ間にセットのサラダを頬張った。
レタスにクルミをまぶして、イタリアンドレッシングをかけた簡単なサラダだが、シャキッとしたレタスとカリッとしたクルミの食感が口内に弾ける。
そしてクルミの香ばしさとイタリアンドレッシングの風味がいい具合にマッチして、まろやかな味が舌に広がった。
うん。美味しい。
サラダを食べていると、天使さんがちょんまげに追加の料理を運んで来た。
なにぃ!リブステーキだとっ!このレストランで一番高価な料理じゃないかっ!!
ちょんまげめ。庶民的と思わせながら、己の財力と胃袋の大きさを見せつける作戦に出たか。悔しいが僕にはこれ以上追加注文する胃袋はない。
だが、僕は負けを認めるわけにはいかない。
とりあえず、食事中は休戦だ。勝負はお会計の時まで預けておこうではないか。
しかし、ぬかったな。ちょんまげ。その量では僕の方が食べ終わるのが早いだろう。
ということは、レジには僕が早く行けるということだ。天使さんかレジの近くに居る時を見計らって動けば、レストランを出る時にはあの美しい笑顔が見られる。
僕は少し冷めたミラノ風ドリアの上にある半熟たまごにスプーンを突き立てた。
本当は半分くらい食べたところで、たまごを潰すのが僕のスタイルなのだが、今日はそうも言っていられない。
ミラノ風ドリアとシナモンフォカッチャを胃袋に収めて、伝票を握る。急ぎ気味で食べたので、お腹が少し苦しい。
レジの方を見ると、丁度近くに天使さんが居た。
よし、いまだ!
タイミングばっちり、このままレジに行けば、天使さんが応対してくれる。もしかしたら二、三言話せるかもしれない。
僕は鞄を持って席を立った。
レジまでは数メートル。
憧れの天使さんまであと少しだ。
だかその時。あれが鳴った。
ピンポーン……。
愛しの天使さんさその音に引かれ、レジの側を離れた。天使さんが僕とすれ違う。
自然と目線が天使さんを追ってしまう。
天使さんか向かったその先には、あのちょんまげが居た。
やられた。完全に僕の負けだ。
僕がレジに辿り着くと、そこにはゴジラが待っていた。
「お会計、八百円で〜す」
野太いだみ声に、僕は肩を落として会計を済ませた。天使の笑顔に勝利の気分を味わうはずが。ゴジラの唸り声で敗北を告げられる事になるとは。
僕はレストランの扉に手をかけて、ちょんまげを見た。
するとちょんまげは僕と目を合わせると、ニカっと爽やかに笑った。
そして、口だけを動かしてこう言った。
ゴキゲンヨウ……!
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