運命

1/5
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

運命

 その時、その人に出会って、ライエの人生は大きく変わった。  一見して、お金持ちの偉い人だと分かる。街の中なのに立派な馬車が曳かれていて、そこから降りてきてライエの側に寄ってくるその男は、やはり身なりも立派だった。 「そなた、儂のものになれ」  横柄な第一声がそれだった。ライエは頷いた。 「いいですよ」  意味はわからないまでも、これが生きてきたなかではじめての他人からの命令であり、ぜったいに断れないものだと理解した。  節くれ立って指輪がいくつもはまった手に掴まれて馬車に乗り込むとき、すこし気後れしたことは隠しようがなかった。大通での「仕事」だったから唯一破れも汚れも少ない服だったが、体は昨日冷たい川で水を浴びただけだったし―――なによりも、身分が違いすぎた。  数分前まで、ただの浮浪者だったので。  ためらったのを、男に見咎められた。 「悪いようにはせぬ」  意志の強そうな深い青色の瞳がじっとライエの黒い瞳を見つめる。頷いて、ちらりと頭の隅を掠めた弟分たちのことを振り払い、金飾の大きな箱に足をかけた。  連れていかれた先は、大きな城だった。  その中の大きな部屋に入れられ、かと思うと大勢の女にその部屋よりも広い風呂に案内されて体を念入りに洗われ――洗ってではない――真新しい手触りのよい服を渡された。 「着てきた服は……」 「勝手ながら、捨てさせていただきました」  また部屋に戻ると、見たこともない豪勢な食べ物が待っていた。  大勢の、お手伝いだろうか、お仕着せの女たちは美しい紋様の描かれた壁際に立ったまま、どうやらそこにいろという命令を受けているようだ。 「………」  多少居心地の悪さを感じながら、銀色に輝く先が細く4つに割れた食べるための道具だと思われるものに手を伸ばした。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!